そのままの君が好き〜その恋の行方〜
和歌山県代表との一戦は、私達の声援も空しく、1-4で敗れ、7年ぶりの母校の夏は1回戦で終わった。


相手チームの校歌を、ベンチ前で聞き終えた後、全速力で私達のスタンド前に走って来た後輩達は、泣いてる子も笑顔の子もいたけど、誰の表情にも全力を尽くして戦った充実感が満ち溢れていた。


そんな彼らに、私達は惜しみない拍手を贈る。


「よくやったよ、本当に。正直、一緒にやってて、甲子園なんて、とても無理だと思ってた。だけど、アイツらは誰も諦めてなかった。絶対に甲子園に行くって、みんな真っ直ぐに前を向いてた。僕は、アイツらを心から尊敬してる。」


総一郎はそう言って、手が痛くなるんじゃないかと思うくらいの力強い拍手を後輩達に贈っていた。


大応援団はこれから、バスでまた神奈川へ、ということだが、私達はこの日、神戸に泊まることにしていた。


初めてのお泊りデート。予約していたホテルにチェックインして、荷物を部屋に置いた私達は、夕暮れの神戸の街に出た。


付き合い始めてから4ヶ月。私達を待っていたのは、強烈なスレ違いだった


4月から、新たなスタートを切った総一郎は、新卒の子達と入社日は同じだったけど、社会人経験者として、全く別個の扱い。数日の研修を経て、すぐに、引っ越しの現場に投入されてしまった。


「引っ越し難民」の言葉が、マスコミに踊るようになってから、何年か経つけど、最盛期の3月は過ぎたものの、4月の上旬はまだまだ忙しい業界だ。


いきなりその渦中に、投げ込まれてしまった形の総一郎。それから、忙しさは徐々に解消されて行ったものの、引っ越しをする人は当然土日が多く、そこは出勤になる。転職早々の彼が、ワガママを言える雰囲気ではない。


一方の私は、平日休みなどまず望めない。その上、6月の定期異動で、より忙しい部署に移ることになった。


そんなこんなでメールや電話ではなんとかコミュニケーションは取っていたけど、会うことは、それこそ月に1回出来ればいい方という状態。


悠は大学時代、4年間、先輩と遠恋だった。由夏と塚原くんは今、仙台と神奈川で離れ離れ、やっぱり寂しい思いもしてるようだ。


でも私達は、遠く離れてるわけじゃない。なのに、ほとんど会えない現実。


(これで、付き合ってるって言えるの?)


やっと心を通じ合わせて、デートを重ね、お互いを分かり合って、絆を深めて行かなきゃいけない時期なのに・・・。


そんな不安と焦りを感じていた矢先に、届いた母校の甲子園行きのニュース。


私達は、それに合わせて夏休みを申請した。母校の応援を理由にしたら、それまでなかなかいい顔をされなかった総一郎の休暇申請があっさり通ったのが、不思議だった。
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