そのままの君が好き〜その恋の行方〜
研修を終え、配属先に着任した私は、所属長である課長の訓示を受けたあと、私の指導担当である近藤さんに引き合わされた。


「近藤です。3ヶ月間よろしくね。」


桜井加奈(さくらいかな)です。こちらこそよろしくお願いします。」


「あれ?桜井さんは明協高校出身なんだ。野球強いところだよね。」


「はい。私達の頃は、特に強くて、甲子園で優勝したりしました。」


「そうだよね。こう見えても、僕も高校まで野球やっててね。今でも高校野球は好きで、よく見るよ。確かにあの頃の明協は強かったよなぁ。」


「官庁の中の官庁」と言われる財務省では、T大出が当たり前で、聞かれるのは出身高校だという話を聞いたことがあるけど、他の省庁では、そんなことはない。


私も就職活動時から今まで、大学しか聞かれたり、話題にしたりしたことがなかったから、いきなり高校のことを聞いて来た近藤さんに驚いた。


こうして、近藤さんに付いて、官僚生活をスタートした私だが、すぐに壁にぶち当たった。


秀才と人から言われ、自分でもそれなりに頭がいいと自負して来た私だけど、ここでは秀才が当たり前、秀才しか入って来られない世界なのだと言うことに間もなく気付かされた。


そして、そういう人達の中に入ると、自分は意外と不器用で要領がよくないという現実を否が応でも自覚せざるを得なかった。


勉強は、特に高校から大学にかけては、手を抜かずに取り組んだと思っているけど、社会ではそれだけでは通用しないということを思い知らされることが多くなった。
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