そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「最初は、本当に若い女性と話すことに慣れてなかったからだった。だけど、それはやがて、自分への戒めになった。勘違いしちゃいけないって。」


「勘違い?」


「この人は、俺の手の届くような人じゃない。無駄なことをしちゃいけないって。」


「川越さん・・・。」


川越さんが、何を言おうとしてるのか、気づいた私は、思わず彼の顔を見る。


「とにかく、距離を置こう。近づいてはいけない、必要以上に親しくなっちゃいけない。君に嫌われたくなかった。そして、結論が見えてることで、自分が傷付きたくもなかった・・・。」


「・・・。」


「見ているだけでよかった。一緒に仕事して、そのことに関する会話を交わせるだけで十分だと思ってた。だけど、ある日、気が付いた。この人は遠くない将来にいなくなる。そうしたら、もう話すことはおろか、姿を見ることすら、出来なくなる。」


(川越さん・・・。)


「だから、君と一緒に仕事が出来なくなってからの時間は貴重だった。君がいなくなる、君が見えなくなることに慣れる為のいい予行演習になった。あの時間がなかったら、俺は今、こうやって君の前に立つことなんか、とても出来なかった。」


「・・・。」


「じゃあな、桜井さん。元気でな。これからの活躍を、横浜から祈ってます。さよなら。」


そう言って、頭を下げると、川越さんは走って行ってしまった。自分の言いたいことだけ言って、なんて自分勝手な人なんだろう・・・。


私は、とうとう川越さんにキチンとさよならすら、言わせてもらえなかった。


なんとも、後味の悪いお別れに、私の心の中には、苦いものが広がっていた。
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