そのままの君が好き〜その恋の行方〜
そんな出来の悪い研修生である私を、近藤さんは見捨てることなく、優しく根気強く指導してくれた。


「桜井さんは真面目だなぁ。でも真面目過ぎる。」


二言目には、そう言って、私にいろいろなことを教えてくれた。私もそんな近藤さんから、いろいろなことを学び、吸収しようと頑張った。


そして、3ヶ月はあっと言う間に過ぎた。研修生という立場を卒業した私は、近藤さんの下を離れ、独り立ちしなければならなくなった。


もはや1人のスタッフとして、先輩達と同じように容赦なく扱われるようになった私は、課長の期待に応えられてるとは、お世辞にも言えない状況だった。


「近藤は桜井くんを少し甘やかし過ぎたな。」


そう言いながら、苦い顔をした課長から、直接指導を受けることが増えた。


「気にするな。課長は君を一人前にしようとしてくれてるんだから。頑張って、付いてくんだぞ。」


そんな私を指導官の立場を離れ、チームも違い、先輩後輩の差はあれど同じスタッフとなったはずの近藤さんは、影に日向にフォローしてくれた。


そして、1年。とにもかくにも私が、厚労省官僚としてやって来られたのは、間違いなく近藤さんのお陰である。


そんな近藤さんに、私がいつしか淡い慕いを抱くようになったのは、自然なことだったかもしれない。


だけど、なんで世の中ってうまく行かないんだろ。だって、近藤さんの左手の薬指には、まばゆいばかりに光り輝く(あくまで私の目には、だけど)リングが・・・。


「なっ、可愛いだろ。」


なんて携帯の待ち受けにしている奥さんに抱かれてる娘さんの写真を自慢げに見せてる近藤さん。娘さんと奥さん、どっちを自慢してるんだか・・・。


(なんで、私って、こんなに恋愛運、ないんだろ・・・。)


いつの間にか、そんなことに思いをはせていると、まぶたの裏に、ある人の顔が浮かんで来て、私はフッとため息をついた。
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