そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「おはようございます。」


代休明けの火曜日、事務所に顔を出すと、三嶋が飛んで来た。


「沖田さん、本当にすみませんでした。」


そう言って、頭を下げて来る三嶋。急病で倒れた同僚とは、三嶋のことで、土曜日に俺が桜井さんと約束していたことは、ヤツも知っていた。しかし、三嶋にアクシデントがあれば、それを相棒である俺がフォローするのは、当然のことだ。


「大丈夫なのか、もう。」


「はい。お陰様で、土日ゆっくり休ませていただいたんで。桜井さんに怒られませんでしたか?」


「彼女なら、ちゃんとわかってくれるさ。今週の土曜日に延期ということで、話はついてるから、気にするな。」


「なら、よかったです。ホッとしました。桜井さんによく謝っておいて下さい。」


「あいよ。それよりこの貸しはデカいぞ。今度晩飯な。」


「はい、わかってます。」


そんな軽口を叩き合うと、俺達は今日の打ち合わせに入った。


(それにしても・・・。)


打ち合わせが終わり、三嶋と別れた俺は、取引先に向かう道すがら、ハンドルを握りながら、考えていた。


(アイツ、彼氏とうまくいってないのかな?)


さっき冗談で、晩飯な、と言った俺に対して、「私には彼氏が」という決まり文句をアイツは口にすることはなかった。


早いもので、アイツも社会に出てから、そろそろ1年。その程度の冗談に、いちいちまともに付き合ってられないということかもしれないが、しかし考えてみると、事ある毎に聞かされてきた、彼氏のノロケ話やデートの話題を、最近聞いた記憶がない。


もちろん、前のように、アイツとずっと一緒に行動しているわけじゃないということもあるかもしれないけど・・・


まぁ、しかし所詮はプライベートのことであり、俺が気にしたり、まして、心配して口を出すことではないよな。俺はそう思って、気持ちを切り替えた。


取引先を回り、いくつかの自社製品の売場拡大の約束を取り付けて、俺が帰社すると、三嶋はすでに退社していた。


『沖田さん、お疲れ様でした。今日は用事があるので、お先に失礼します。また明日です。  三嶋』


俺のデスクには、女子らしい可愛い文字のメモが貼り付けてあった。


いそいそと帰ってるようなら、取り越し苦労だったかと、やや安堵しながら、俺はこの日の状況を課長に報告したあと、デスクワークを軽く片付けると、会社を後にした。


時間を確認すると、6時半を回ったところ。まだ桜井さんは仕事中だろう。もう少したったらメールを入れてみようか。


そんなことを考えながら、帰宅の途についた俺は、気付くはずもなかった。うまく回り始めたように思えた桜井さんとの歯車が、この2週のすれ違いで、また軋んでしまおうとしていることに・・・。
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