そのままの君が好き〜その恋の行方〜
言葉通り30分程で、近藤さんは帰って来た。大喜びで、飛びついて来た絵里ちゃんを、抱き上げながら、近藤さんは


「こんな時間になってしまって。申し訳なかった。」


「いえ。面接、どうでした?」


「うん、そう簡単にはね。向こうにもこっちにも譲れないものはあるから。」


と疲れた表情で言う近藤さん。


「そうですか・・・。じゃ、私はこれで。」


「待ってくれ。いつも大したもんじゃなくて、申し訳ないんだけど、娘が好きだからフライドチキン買ってきた。よかったら、食べてってくれないか。」


「でも・・・。」


近藤さんにすれば、せめてものお礼のつもりなのだろうが、私としては、これ以上長居をしない方がいいという判断があった。せっかくのご厚意だが、お断りして帰ろうとすると


「エ~、加奈ちゃん帰っちゃうの?絵里と一緒に、チキン食べようよ~。」


とパパから離れて、絵里ちゃんがじゃれついて来る。


「絵里は、お姉ちゃんが大好きなんだな。娘もこう言ってる。無理に引き留めてまで、食べてってもらうもんじゃないが、よかったらどうぞ。」


そこまで言われて、無下に断ることも出来ず、私は結局、食卓についた。


フライドチキンに冷凍食品のピザ、簡単なサラダだけは近藤さんが出してくれて・・・そう言えばお昼も、コンビニのおにぎりだった。これじゃ、確かに絵里ちゃんの食育にいいはずがない。


「俺の料理の腕の問題はあるけど、一応休みの日は、ちゃんと作るようにしてるんだけどな・・・。」


大好物のチキンを頬張って、ご機嫌の絵里ちゃんの橫で、言い訳のように近藤さんはつぶやく。絵里ちゃんのお陰で、賑やかではあったけど、侘しい食事が終わった後、私は後片付けに立った。近藤さんは、そのままにしてくれと言っていたけど、一応の礼儀だと思うから。


それが終わり、私が気が付くと、近藤さんはベランダに出て、夜景を眺めていた。


「終わりました。」


「ありがとう。済まなかったね。」


そう言いながら、部屋に入って来る近藤さん。


「絵里ちゃん、寝ちゃったんですか?」


「ああ。風呂に入れようと思ったんだけど、眠いって言って。」


やはり慣れて来たとは言え、私は所詮他人。彼女なりに緊張して、疲れてしまったのだろう。


「桜井さん、今日は済まなかった。俺が君に頼んでることが、どんなに非常識なことかは、わかってるつもりだから。もうこれっきりにする。本当に済まなかった、そしてありがとう。」


「・・・。」


「気を付けて、帰ってくれ。駅まで送って行きたいんだけど、アイツみたいに、夜にあの子を1人で、置いて行くわけにはいかないから。」


私はこのまま帰るべきだった・・・のかもしれない。
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