そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「そうだよ、俺にとってはその子は、可愛い妹。それ以外の何者でもないはずだった。だけど・・・実は違っていたことに気づいたのは最近だった。」


「・・・。」


「いつからそうなっていたのか、自分でもわからない。ひょっとしたらその子と出会った瞬間からだった、のかもしれない。」


(ダ、ダメだよ。これ以上、聞いちゃいけない。)


私は自分にそう言い聞かせるけど、なぜか身体が痺れたように動かない。


「嫁さんがいなくなって、苦しんでる俺を偶然も重なって、その子は何度も助けてくれた。俺の図々しい頼みも、嫌な顔もせず引き受けてくれた。母親がいなくなって、寂しがる娘を癒やしてくれた。そして、誰よりも俺自身が、その子に救われた。」


「・・・。」


「でも、それが許されない気持ちであることもわかってた。だから必死に平静を装った。」


近藤さんも私に視線を向けない。私も俯いたまま。


「自分の部屋で、たまらなくなって、その子を後ろから抱きしめてしまった時は、本当にヤバかった。もし、隣の部屋で、娘が寝てなかったら、たぶん俺は・・・。」


その近藤さんの言葉に、私はハッと顔を上げる。


「その時に誓った。もうこの子を2度とここには呼ばない。もうこの子には頼らない、頼っちゃいけないんだって、必死に自分に言い聞かせた。異動が決まった時は、本当にホッとした。もう少し頑張って、優しい先輩を演じ切れば、全てが終わる。そう思い続けた2週間だった。」


「近藤さん・・・。」


なぜか私の目に涙が浮かぶ。なんで今・・・?


「だけど、自分の心に嘘を付き続けることがもう、限界だった。あと1日、いや、あとほんの少しの時間だったのに・・・。」


そして近藤さんはまっすぐ私を見た。思わず後ずさりする私。


「すまない、もうダメだ。いい兄貴でなんか、いられない。許してくれ、加奈。」


(ダメ、名前でなんて呼ばないで!)


私はようやく、駆け出そうとする。でも、その身体は、あっと言う間に、近藤さんの腕の中に閉じ込められる。


私と近藤さんの手にあったはずの傘は、いつの間にか消えていて、降りしきる雨が、私達の身体をあっと言う間に濡らす。


「加奈、好きだ。君が好きなんだ。」


「ダメです、近藤さん。あなたにはまだ奥さんがいます、これは不倫です。あなたは奥さんがいなくなって、その代わりが欲しいだけなんです。私は、手頃な相手として、あなたに選ばれただけ。そんなの嫌です!」


「違う、そんなんじゃない。俺は本気なんだ。」


「本気だからって、どうにもなら・・・。」


その後の言葉を、私は紡ぐことが出来なかった。近藤さんの唇によって、封じられてしまったから。


(嫌!)


人よりだいぶ遅いかもしれないけど、これは私のファーストキス。それをこんな形で・・・。私は必死にもがくけど、近藤さんを振り払うことが出来ない。


近藤さんだけじゃない、私だって近藤さんへの想いを押し殺して来たんだ・・・。私はついに、近藤さんの口づけを完全に受け入れてしまった。


(沖田くん・・・。)


一瞬、彼の顔が浮かんだ。でもそれは、あっと言う間に消えて行ってしまった・・・。
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