そのままの君が好き〜その恋の行方〜
翌朝、私は母の声に起こされた。


「もう10時だから、起きない?」


「ゴメン。ちょっと体調悪い、もう少し寝かせておいて。」


布団を被ったまま、そう答える娘の異変に、気づかぬふりをして、部屋を出る母。その心遣いが、今は心に沁みる。


(いつの間にか、寝ちゃってたんだな・・・。)


いっそ昨日の出来事が夢ならと思うけど、下半身に感じる違和感と和樹さんが私の身体に残した愛の印が目に入り、私は現実に引き戻される。


ベッドの横にある携帯を手に取ると、和樹さんからの着信とメールが。


『加奈、おはよう。昨日は・・・ゴメン。こういう時に男が謝るのは最低なことだということはわかってる。だけど・・・俺は加奈を辛い道に引き摺り込んでしまった。そのことは申し訳ないと思ってる。しかし、勝手かもしれないが、俺は後悔はしていない。俺の加奈への気持ちに嘘はない。どんなことをしてでも、必ず加奈を幸せにするから。だから俺を信じて欲しい。加奈の声が聞きたい。また、あとで連絡する。』


私の目にまた、涙が浮かぶ。和樹さんを信じたい、いや信じなきゃ、でも・・・。自分の気持ちの整理がつかず、私はベッドに潜り込む。


こうしていても、なにも解決はしない。でも、起き上がることも出来ずにベッドで無為な時間を過ごしていると、携帯の着信音が響いた。


(和樹さん?)


飛び跳ねるようにベッドから起き上がった私は、なぜか恐る恐るディスプレイに目をやる。そこに表示されてたのは・・・。


(悠。)


「もしもし。」


『おはよう、加奈。って、もうお昼か。』


聞こえて来たのは、高校時代から変わらない明るくて、可愛い悠の声。


『今、デート中?』


悪気がないのはわかっているけど、その悠の言葉に、胸が痛む。


「ううん、家。ちょっと体調悪くてグダグダしてた。」


『えっ、大丈夫?』


「大したことない。最近ちょっと忙しかったから・・・。」


『そっか・・・無理しないでね。じゃ、厳しいか・・・。』


「何が?」


『来週こそデートかなって。』


「ここんとこ、お互い忙しくて・・・まだ予定立ててない。どうしたの?」


『来週の土曜日、定例会どうかな?久しぶりに私も行けそうなんだ。』


「赤ちゃんは?」


4月、予定日より少し早く、悠は男の子を出産。無事2児の母親になった。由夏と2人で、赤ちゃんを見に行ったけど、横でスヤスヤと眠る我が子を愛しそうに見つめる悠の姿に、私は結婚への憧れを強くしてしまった・・・。


『パパが珍しく土曜日休みで、見ててくれるって。』


その幸せそうな言葉に、私は思わず耳を塞ぎたくなる。


「ゴメン。ちょっと待ってもらっていい?」


『そうだよね。沖田くんの都合も聞いた方がいいしね。オッケー、じゃ週明けにでも連絡ちょうだい。』


「わかった。ゴメンね、悠。」


『大丈夫、そっちが優先だもん。じゃ加奈、お大事にね。』


私の体調に気を遣って、悠は電話を切った。次の瞬間、私の心は切ない気持ちでいっぱいだった・・・。
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