残念少女は今ドキ王子に興味ありません
いち
「私のドコが好きなんですか?」
その言葉に、目の前の“彼”は目を丸くした。
鳩が豆鉄砲食らうって、多分こんなカンジじゃないかってぐらい、そりゃあ見事にまん丸だ。
「えっ、いや、そりゃ、カワイイってか、美人、だし?」
疑問形かーい!
思わず眉を顰めると、更に焦ったように視線を泳がせる。
「あっ、あと、なんか、セイソ?なカンジとか、頭良さそうかな~って…」
―――うん、漢字で言お?
てか、別にそこまで良くないし、どう考えても勘違いが甚だしいよね?
そう思いながら、半眼で見つめていると、居心地悪そうに、更に視線を彷徨わせた彼が、不意に、“ザッ”と効果音が付けられそうな勢いで頭を下げた。
「スッ、スンマせんでしたっっっ!!!」
ほぼ、叫んでた、と思う。
彼は、呆気に取られる私を残して逃げるようにその場を立ち去った。
―――まぁ、いいけど。
ぶっちゃけ、初めてじゃ無いし。
憧れの慶祥(けいしょう)女学園に入学して早3か月。
毎日時間を掛けてお手入れしている、肩甲骨までのロングヘアはサラサラだし、食べ物から気を付けているおかげで、つやつやほっぺにニキビは無い。もちろん、年中日焼け止めは欠かさない。
それもこれも、今時珍しい、正統派セーラー服をバッチリ着こなす為だ。
勉強も含め、その為の努力は惜しまない―――なんて言うと、物凄い女子力UPに力入れてるカンジだけど、実のところ、自分的には80年代アイドル風コスプレ気分だったりする。
むかーし流行った、某スケバン的な(笑)
流石にくるぶし丈はいただけないので、膝が隠れる程度に抑えているけど、これが何だか知らんがやたらと男受けが良いらしく、JRを使った通学途中に声を掛けられたのは、これまでに5回を数えていた。
まったく、やれやれ、だ。
そこで、“コレ”のどこがいいんだ?という意味も含めて、冒頭のセリフに戻る―――という訳。
今の所、5回が5回とも撤収しているあたり、皆このコスプレに騙されているだけのようなので、現実に目が覚めて何よりである。
「さて、行くか。」
今日はアマ◯ンで頼んだ、藤井ひそか先生の「漫画家せりな」シリーズ全巻セットが届くはず!
全巻―――と言っても、完結しないまま放置されているらしいのだけど、出版されていた分は全部揃っているらしい。
「ふ、ふ…」
思わず緩む頬を慌てて引き締め、背筋を伸ばす。
危ない危ない、家まで我慢だ!おーっ!
心の中で掛け声をかけると、肩にかかる髪を背中に払い、くるりとスカートを翻して家路へと足を向けた。
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