残念少女は今ドキ王子に興味ありません
じゅう
心臓をギュウッと鷲掴みにされたような気がした。
窓の外には見当たらない、けど。
「ちょっと、待ってて」
彼が何か言ってる。
でも、頭がうまく動かない。
どうしよう―――また、絡まれたら。
ぶるっと震えが走った、その時。
「行こう。」
背中に暖かな感触がして、促されるままに店を出た。
見上げると、気付いた彼がふ…と笑う。
「心配すんな。1人じゃなきゃアイツも近付いてはこないだろ?」
そう言って、辺りを見回す。
自分でも見てみたけど、ヤツはいないようだった。
ICカードで改札を通り抜けて、ホームに出る。
「案外、この路線じゃ無いのかもな。」
ホームに並ぶ人達を一通り確認してから彼が言った。
この路線じゃないのなら、何でいたんだろう?
昨日だけ、わざわざ?まさか、私に絡む為?
ぞっとして、無意識に腕を擦る。
昨日のアイツは“アイス・メイデン”って言ってた。
あだ名とか噂を聞いて、面白半分で来たってトコなんだろうか…。
少なくとも、私に気があるというふうじゃなかった…よね?
ただ、もの凄くカンジが悪かった。
あんな悪意に晒されたのは初めてだったから、余計に。
「部活はしてないんだよな?いつもこの時間なのか?」
「う、うん。…大体は。」
「誰か一緒に帰るヤツとかいないのか?」
「友達は部活やってるから…。」
途端に、今日の2人の様子が蘇った。
だめだ、しっかりしなきゃ。
こんなこと話したらまた心配かけちゃう。
「っ、大丈夫、だよ!こんな昼間だし。何もヘンな事はしてこないんじゃないかな?いざとなったら、大声出すしっ!」
早口で捲し立てると、彼が困った様に眉を下げた。
そう言う顔もカッコいいなんて、反則だなと思いながら、視線を逸らす。
「こう見えて、足も速いしね! いざとなったら蹴り上げてやるし!」
ぶっと、吹き出した彼が手で口許を覆った。
流石にタマ蹴りは言わない方が良かったかな…?
彼がチラッとこっちを見る。
「頼もしいな。」
「でしょ?」
ニカッと笑ってみせると、彼がやれやれという様に笑った。
ちょうどそこに電車がやって来て、揃って乗り込むと、昨日のように戸口直ぐのバーに導かれる。何というか、色々とスマートだよね? この顔だし、普通に彼女いそうだけど。
「何?」
「え、いや…慣れてるな~と思って。」
「慣れてる?」
「あ、うん、彼女とか、喜びそうだな~って。」
すると、彼がスッと目を細めた。
途端に空気が1度下がったような錯覚を覚えて、ギョッとする私の前で、彼がふっ…と息を付く。
次いで、ちょっと決まり悪そうな顔をしながら、髪を掻き上げた。
「ないだろ、いつも振られるんだから。」
「ええっ?」
このヒトを振るって、どんな強者なの?!
驚きすぎて口を開けたまま見つめていると、彼がちょっと口を歪めて自嘲気味に笑う。
「まあ、無理も無いっていうか。…基本部活忙しいし、メールとかもしないし。」
「ああ…」
なる程、放置し過ぎてってヤツですか。
妙に納得してしまう。確かにこの顔でベタベタに構ってくるとか、想像つかないわ。
それにしても、何の部活何だろう?
成陵はスポーツ強いから、やっぱそれ系なのかな?
「部活厳しいって事は、結構強いんだね?何やってるの?」
それは何の気なしの質問だった。
成陵で1番強いのは野球だけど、髪型がぽくないなぁ…と思ったからだ。
すると彼は、一瞬動きを止めて私をジッと見つめた後、微かに口角を上げながら言った。
「俺は“ハーフ”だよ。いつも右サイドをやってる。」
その言葉にポカンとした。
彼の長身を見上げて。
正直、“意外”だと思ったからだ。
「…そうなんだ、空中戦強そうだから、“トップ”かと。」
「フォーメーションによっては“ウイング”もやる。」
「ああ、だよね。“オフェンシブ”だと思った。」
「そうか?」
「うん、何となく。」
彼は優しげな顔立ちだけど、目線が鋭い―――そう思って頷くと、彼が少し嬉しそうに笑みを深めた。
その笑顔に、ドクッと、心臓が音を立てる。
あれっ?何、これ…?
戸惑って視線を逸らした時、車内にアナウンスが流れた。
“次は、『豊町』。降り口は右側です。お降りの際はお忘れ物にご注意の上、安全の為停車してから移動して下さい。~♪”
「そう言えば」
無意識にアナウンスに耳を澄ませていた私は、不意に話し掛けられて、ビクッと肩を揺らしてしまう。
「えっ、あ、何?」
「いや、昨日、ここで降りなかったけど、大丈夫だったのか?」
「あ、あー、うん。」
そう言えば、そうでした。
えへへ…と笑いながら顔を上げたものの、彼の顔を見る事が出来ない。
「あそこは、伯母さんちなんだ。時々、寄らせて貰ってるだけなの。」
「ふーん。…今日は寄らないのか?」
彼としてはたぶん、無意識の質問だったんだろう。
でも、うん、無理!!
だって、ここで降りたら、一緒にマンションまで行くって事でしょ?!
これ以上は無理だよ! 何が?って言われてもわかんないけど、無理!!
「あ、うん、止めとく。こないだ遅くなって、お母さんに怒られちゃったから。」
「…そうか。」
ううっ、早く着いて~!!
視線を逸らしたままで愛想笑いを浮かべる私の願いが聞き届けられたように、ギギ―――と音を立てて、電車が止まった。
彼が私の隣をすり抜けてホームへ降り立つ。
「じゃあな、“シズル”」
その言葉に。
ハッとして振り向くと、彼が微笑みながら手を上げた所だった。
呆然とする私の前で、ドアが閉まった。
窓の外には見当たらない、けど。
「ちょっと、待ってて」
彼が何か言ってる。
でも、頭がうまく動かない。
どうしよう―――また、絡まれたら。
ぶるっと震えが走った、その時。
「行こう。」
背中に暖かな感触がして、促されるままに店を出た。
見上げると、気付いた彼がふ…と笑う。
「心配すんな。1人じゃなきゃアイツも近付いてはこないだろ?」
そう言って、辺りを見回す。
自分でも見てみたけど、ヤツはいないようだった。
ICカードで改札を通り抜けて、ホームに出る。
「案外、この路線じゃ無いのかもな。」
ホームに並ぶ人達を一通り確認してから彼が言った。
この路線じゃないのなら、何でいたんだろう?
昨日だけ、わざわざ?まさか、私に絡む為?
ぞっとして、無意識に腕を擦る。
昨日のアイツは“アイス・メイデン”って言ってた。
あだ名とか噂を聞いて、面白半分で来たってトコなんだろうか…。
少なくとも、私に気があるというふうじゃなかった…よね?
ただ、もの凄くカンジが悪かった。
あんな悪意に晒されたのは初めてだったから、余計に。
「部活はしてないんだよな?いつもこの時間なのか?」
「う、うん。…大体は。」
「誰か一緒に帰るヤツとかいないのか?」
「友達は部活やってるから…。」
途端に、今日の2人の様子が蘇った。
だめだ、しっかりしなきゃ。
こんなこと話したらまた心配かけちゃう。
「っ、大丈夫、だよ!こんな昼間だし。何もヘンな事はしてこないんじゃないかな?いざとなったら、大声出すしっ!」
早口で捲し立てると、彼が困った様に眉を下げた。
そう言う顔もカッコいいなんて、反則だなと思いながら、視線を逸らす。
「こう見えて、足も速いしね! いざとなったら蹴り上げてやるし!」
ぶっと、吹き出した彼が手で口許を覆った。
流石にタマ蹴りは言わない方が良かったかな…?
彼がチラッとこっちを見る。
「頼もしいな。」
「でしょ?」
ニカッと笑ってみせると、彼がやれやれという様に笑った。
ちょうどそこに電車がやって来て、揃って乗り込むと、昨日のように戸口直ぐのバーに導かれる。何というか、色々とスマートだよね? この顔だし、普通に彼女いそうだけど。
「何?」
「え、いや…慣れてるな~と思って。」
「慣れてる?」
「あ、うん、彼女とか、喜びそうだな~って。」
すると、彼がスッと目を細めた。
途端に空気が1度下がったような錯覚を覚えて、ギョッとする私の前で、彼がふっ…と息を付く。
次いで、ちょっと決まり悪そうな顔をしながら、髪を掻き上げた。
「ないだろ、いつも振られるんだから。」
「ええっ?」
このヒトを振るって、どんな強者なの?!
驚きすぎて口を開けたまま見つめていると、彼がちょっと口を歪めて自嘲気味に笑う。
「まあ、無理も無いっていうか。…基本部活忙しいし、メールとかもしないし。」
「ああ…」
なる程、放置し過ぎてってヤツですか。
妙に納得してしまう。確かにこの顔でベタベタに構ってくるとか、想像つかないわ。
それにしても、何の部活何だろう?
成陵はスポーツ強いから、やっぱそれ系なのかな?
「部活厳しいって事は、結構強いんだね?何やってるの?」
それは何の気なしの質問だった。
成陵で1番強いのは野球だけど、髪型がぽくないなぁ…と思ったからだ。
すると彼は、一瞬動きを止めて私をジッと見つめた後、微かに口角を上げながら言った。
「俺は“ハーフ”だよ。いつも右サイドをやってる。」
その言葉にポカンとした。
彼の長身を見上げて。
正直、“意外”だと思ったからだ。
「…そうなんだ、空中戦強そうだから、“トップ”かと。」
「フォーメーションによっては“ウイング”もやる。」
「ああ、だよね。“オフェンシブ”だと思った。」
「そうか?」
「うん、何となく。」
彼は優しげな顔立ちだけど、目線が鋭い―――そう思って頷くと、彼が少し嬉しそうに笑みを深めた。
その笑顔に、ドクッと、心臓が音を立てる。
あれっ?何、これ…?
戸惑って視線を逸らした時、車内にアナウンスが流れた。
“次は、『豊町』。降り口は右側です。お降りの際はお忘れ物にご注意の上、安全の為停車してから移動して下さい。~♪”
「そう言えば」
無意識にアナウンスに耳を澄ませていた私は、不意に話し掛けられて、ビクッと肩を揺らしてしまう。
「えっ、あ、何?」
「いや、昨日、ここで降りなかったけど、大丈夫だったのか?」
「あ、あー、うん。」
そう言えば、そうでした。
えへへ…と笑いながら顔を上げたものの、彼の顔を見る事が出来ない。
「あそこは、伯母さんちなんだ。時々、寄らせて貰ってるだけなの。」
「ふーん。…今日は寄らないのか?」
彼としてはたぶん、無意識の質問だったんだろう。
でも、うん、無理!!
だって、ここで降りたら、一緒にマンションまで行くって事でしょ?!
これ以上は無理だよ! 何が?って言われてもわかんないけど、無理!!
「あ、うん、止めとく。こないだ遅くなって、お母さんに怒られちゃったから。」
「…そうか。」
ううっ、早く着いて~!!
視線を逸らしたままで愛想笑いを浮かべる私の願いが聞き届けられたように、ギギ―――と音を立てて、電車が止まった。
彼が私の隣をすり抜けてホームへ降り立つ。
「じゃあな、“シズル”」
その言葉に。
ハッとして振り向くと、彼が微笑みながら手を上げた所だった。
呆然とする私の前で、ドアが閉まった。