残念少女は今ドキ王子に興味ありません

にじゅういち

―――探しています

 今どき珍しいぐらい正統派(?)のセーラーです。
 染めてない黒髪でサラッサラのロングヘア。
 かわいいってより、美人系。割と背も高いです。
 甘い物が好きなんだと思います。
 まだ棚出し中でトレーに入ったままだった
 「黒蜜きなこのわらび餅」を
 これ取ってもいいですか?って
 恥ずかしそうに言うのが可愛かった…

―――コスプレ?

―――市内でセーラーなら慶祥→

―――あ、コレです!ありがとう!!




「…何コレ?」
「うん、だから、掲示板。」

 何とも言えない気持ちでスクロールする。
 “黒蜜きなこわらび餅”…確かにハマってた。ゴールデンウィーク前に。
 とあるコンビニチェーンのプライベートブランドスイーツで、家の近くのお店に置いてなかったから、結構あちこちのお店をのぞいて探した。
 そしたら、学校帰りにちょっとだけ足を伸ばした所にあったお店で見かけて、まだ陳列棚に乗ってなかったけど、我慢できずに店員さんにお願いしたのを覚えてる。確かに。


―――1回会っただけで顔って覚えてるもん?

―――2週間ぐらい、ほぼ毎日来てたから多分

―――どんだけだよ!

―――時間合わせて毎日準備してたのに、連休明けたら来なくなって…

―――女心と秋の空

―――夏だしwww

―――セーラー、ウチの近くじゃ見ない

―――“下坂手”に大量発生

―――バスが“下坂手”から出てるらしい。友達の彼女情報。

―――自分の、じゃないんだwww

―――自分は“外苑前”。セーラーの子、いるよ。ロングヘア。



 ぞわり―――と肌が泡立つような感覚がした。
 自分の知らない所で、自分の事が話題にされてる?



―――“外苑前”行ってみました。いない、なぁ。セーラー…

―――“外苑”で見たよ。ベンチに座って本読んでた。

―――ありがとうございます!!!

―――自分は、他のコンビニで見た。炭酸買ってた。意外。


「…大丈夫?見るの、やめる?」

 画面を凝視したまま、首を振った。
 ここまで来たら、全部見ちゃった方がいい。


―――今までありがとうございました

―――どした?

―――会えたのか?

―――会えた、んですけど…

―――彼氏いたとか?

―――それはわかんないですけど…

―――焦らし? はよ言えや!

―――店から駅まで歩いてる時に見かけて、思い切って声かけてみたんですけど…無視られちゃって…

―――冷たっっ

―――単純に覚えてなかったんじゃね?

―――あー、でも自分見たカンジ、ちょっとスカしてるっぽかった!

―――慶祥女学園ですからwww

―――お嬢なん?

―――お嬢はコンビニ来ない

―――だぁね

―――いや、わからんよ

―――とりあえず、もういいので。ありがとうございました。

―――ええんかい!

―――どんだけよ

―――俺も見た!確かに冷たそう…まあ、美人だとは思うけど…

―――そう言われると見てみたい気がするかも!

―――探してみよ~

―――わざわざ電車乗らねば…誰か画像アップしね?

―――やってみる!

―――やってみた→

―――ええんかい…見るけどwww

―――ほっそ…てか顔わからん…

―――隠し撮りだしwww

―――あー、知ってる!アレか!

―――俺も見た!声かけてみた!自爆した!

―――こわっ

―――俺も無視られた。冷たいわ~

―――男嫌いなんじゃね?

―――1回、他のセーラーと歩いてたけど、ヅカっぽかった

―――ヅカ?

―――背ぇ高くて、スカートはいてなかったらわからんカンジ

―――あー、女子高あるある

―――男より女?

―――大抵処女www

―――“鋼鉄の処女”ならぬ“氷の処女”www

―――座布団1枚www

―――そん時、シズル?とか呼ばれてた

―――どっちが?“氷の処女”の方?

―――あの、もう、やめてもらっていいですか…

―――あー、ハイハイ

―――お優しいねぇ~

―――じゃひとまずかいさ~ん!

―――バイなら~

―――またお会いしましょ~www

―――会うんかーいwww




「ここにはリンク貼り付けて無いけど、“氷の処女”って検索したら出てくるから…結構こっちから動いてるっぽい。」

 そう言って、リコが顔を覗き込んでくる。
 もう1つの方を見る気にはなれなくて、スマートフォンをリコに返した。その手が震える。

 怖い―――
 今まで思っても見なかった。
 自分の知らない誰かが、自分の事を知っていて、自分の事で盛り上がってる。
 そんな事が有り得るなんて。

 リコがスマートフォンごと、私の手を握りしめた。

「一応、削除依頼はかけてる。大丈夫だよ!こんなの、すぐ飽きるって。」

 顔を上げると、リコがへにょりと眉を下げた。

「とりあえず、さ。“外苑前”使うのはやめよ?“下坂手”なら他にもたくさんウチの生徒いるから。木は森に隠せってね。」

 そう言って、リコはスマートフォンをタップして画面を落とした。昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴っていた。

「あ、そうだそれと、イヤホンはやめときなよ?」
「え?」
「や、アンタ声かけても気付かないじゃん?」

 あ、そうか。
 さっき書かれていた事を思い出す。
 無視られた―――と書いてあったけど、“私には”覚えがなかった。

「髪下ろしてるからねぇ…イヤホン付けてるのわからないよね。」

 コードレスのそれは、耳に装着すると完全に隠れてしまう。曲を飛ばしたり止めたりなんかは、イヤホンを軽くタップするだけで出来るし、端から見ると確かにわからないかもしれない。

「近付いてきても気付かないんじゃ、危ないからね?絶対禁止!わかった?」

 お母さんみたいな言い方に、ちょっと笑った。
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