残念少女は今ドキ王子に興味ありません
にじゅうさん
小柄な身体が左サイドを駆け上がっていく。
蹴ったボールを追いかけるだけのじゃない。
ボールが身体から離れない、華麗なドリブルで。
ああ、そうだ、ドリブルだけじゃない。
あの子はリフティングも上手だった。
『当てるんじゃない、受けるんだ。』
そう言って―――
ピーッという音で目を覚ます。
ハッとして顔を上げると、出口の折りたたみドアが閉まった所だった。
「すいませんっっ、降ります!!」
つい大きな声になってしまって、ちょっと恥ずかしかったけど、何とかバスを降りて、息をついた。
ふう、危ない、危ない。
そういや、昨日なかなか寝付けなかったんだったっけ。
ICカードで改札を通り抜け、ちょうど来ていた電車に乗って、反対側の扉にもたれてから一息ついた。
あの子の事を思い出したのは、ずい分久しぶりだ。
昨日、大地に会ったせいかもしれない。
もう、顔も覚えていない女の子。
でも、この子はきっと自分と違って、ショートカットでも男の子に間違えられたりしないんだろうな…と思った事を覚えてるから、物凄く可愛かったんだと思う。
小3の、何かの大会の時だ。
人に揉まれてうっかりヒップアタックしちゃって、その子はちっちゃくて華奢だったから、怪我させちゃったかとめっちゃ焦ったんだよね。
でもホントは、大丈夫、と言って離れていった背中を見ながら、もうちょっと話したいな…と思ってた。もう“ひな”も練習には来なくなってたから、同じ気持ちを共有出来る子と友達になりたかったのかもしれない。
彼女は違う小学校だったけど、出場してる女の子が少なかったから直ぐに見つけた。チーム自体強かったけど、その子は群を抜いて上手で、ものすごくビックリした。そのぐらい上手かった。
それで、昼休みに彼女を探して回った。
どうやったらそんなに上手くなれるのか、教えて欲しくて。
彼女は、やっぱり女の子だからかチームメイトとは離れたところにいて、1人でリフティングをやっていた。
まるで逆回転を見るように滑らかなリフトアップからのリフティングは、それだけで1つの演技みたいに華麗だった。
大地達が、ポンポンあっちこっちに跳ねるボールを追っかけて、ムリヤリ回数つなげるのとは全く違ってて、彼女は殆どその場所から動かないまま続けていたのだ。
思わず拍手したら、当たり前だけどビックリされて、どっか行こうとした腕を捕まえて頼み込んだんだよね…「弟子入りさせて下さいっっ」って。
だってホントにスゴかったんだもん。
そして、スゴく羨ましかった。
彼女は、間違いなく、チームの戦力になってたから。
あんまり時間無かったし、そんなに話もしなかったけど、でも彼女との出会いは、私の中で宝物になった。
言われて直ぐに出来る事じゃ無いけど…と言いながら、ひとまず片足でボールを足の甲に乗せて立てるように頑張って、と教えてくれた。
要は、体幹を鍛えて、バランス感覚を養う事だったと今なら分かるんだけど、小3だったから、理屈とか分からないし、大地達からは遊んでるってからかわれたっけ。
『乗せられるようになったら、今度はバウンドさせてから乗せる、とか、少しずつステップアップしていくといいよ。』
そう言って笑った顔が可愛かったんだよなぁ…覚えてないけど。そう感じた事を覚えてる。
リフティングの練習ばっかしても意味なくね?―――と言われながらも、だんだん上手にボールを扱えるようになってくると、何故かドリブルも上達していった。
自分でちゃんとキープしながら走り、周りに目を配る。
そんな事が出来るようになっていた、と。
だから、Aチームに選ばれたのだ、と。
だいぶ後になってからコーチに言われたんだったっけ…。
まさかそんな事を今頃思い出すなんて。
大地はこの事聞いてたのかな?
大地の性格は、全くと言っていいほど変わってなかった。
俺が俺が―――!ってとにかくがむしゃらに走っていた大地は、よくコーチに周り見ろ!って怒られてたけど、少しは直ったのかな?
だって、“彼”と友達なら成陵に入ったんだよね?
そう思うと不思議な気分だ。確か、成陵は全国選手権狙う位には強かったはず。
練習は結構熱心にやってたから、あれから頑張ったのかもしれないな。
あんな別れ方しちゃったけど、根は悪いヤツじゃなかったハズ…そう思い出してちょっと笑った。
もう、会う事もないんだから、もう、いいじゃん?
『次は~』といつものアナウンスが流れて、降り口側に移動する。
レイちゃんのマンションがある駅のホームが目に入った瞬間、不意に“彼”の言った言葉を思い出した。
―――もう、この駅には来ない。
試験が終わったのなら、部活が始まるんだろう。
そうなれば、帰る時間が遅くなる―――という事だと思うんだけど…?
駅舎を出て、レイちゃんのマンションへ向かう。
エントランスを抜ける前に、メールコーナーへ入った。
メールボックスと宅配ボックスをじっと見つめる。
1F、2F、3F…
最近は色々物騒だからか、表札を出してない人もいたけれど。
―――401 篠崎
一瞬、鼓動が跳ねた。
蹴ったボールを追いかけるだけのじゃない。
ボールが身体から離れない、華麗なドリブルで。
ああ、そうだ、ドリブルだけじゃない。
あの子はリフティングも上手だった。
『当てるんじゃない、受けるんだ。』
そう言って―――
ピーッという音で目を覚ます。
ハッとして顔を上げると、出口の折りたたみドアが閉まった所だった。
「すいませんっっ、降ります!!」
つい大きな声になってしまって、ちょっと恥ずかしかったけど、何とかバスを降りて、息をついた。
ふう、危ない、危ない。
そういや、昨日なかなか寝付けなかったんだったっけ。
ICカードで改札を通り抜け、ちょうど来ていた電車に乗って、反対側の扉にもたれてから一息ついた。
あの子の事を思い出したのは、ずい分久しぶりだ。
昨日、大地に会ったせいかもしれない。
もう、顔も覚えていない女の子。
でも、この子はきっと自分と違って、ショートカットでも男の子に間違えられたりしないんだろうな…と思った事を覚えてるから、物凄く可愛かったんだと思う。
小3の、何かの大会の時だ。
人に揉まれてうっかりヒップアタックしちゃって、その子はちっちゃくて華奢だったから、怪我させちゃったかとめっちゃ焦ったんだよね。
でもホントは、大丈夫、と言って離れていった背中を見ながら、もうちょっと話したいな…と思ってた。もう“ひな”も練習には来なくなってたから、同じ気持ちを共有出来る子と友達になりたかったのかもしれない。
彼女は違う小学校だったけど、出場してる女の子が少なかったから直ぐに見つけた。チーム自体強かったけど、その子は群を抜いて上手で、ものすごくビックリした。そのぐらい上手かった。
それで、昼休みに彼女を探して回った。
どうやったらそんなに上手くなれるのか、教えて欲しくて。
彼女は、やっぱり女の子だからかチームメイトとは離れたところにいて、1人でリフティングをやっていた。
まるで逆回転を見るように滑らかなリフトアップからのリフティングは、それだけで1つの演技みたいに華麗だった。
大地達が、ポンポンあっちこっちに跳ねるボールを追っかけて、ムリヤリ回数つなげるのとは全く違ってて、彼女は殆どその場所から動かないまま続けていたのだ。
思わず拍手したら、当たり前だけどビックリされて、どっか行こうとした腕を捕まえて頼み込んだんだよね…「弟子入りさせて下さいっっ」って。
だってホントにスゴかったんだもん。
そして、スゴく羨ましかった。
彼女は、間違いなく、チームの戦力になってたから。
あんまり時間無かったし、そんなに話もしなかったけど、でも彼女との出会いは、私の中で宝物になった。
言われて直ぐに出来る事じゃ無いけど…と言いながら、ひとまず片足でボールを足の甲に乗せて立てるように頑張って、と教えてくれた。
要は、体幹を鍛えて、バランス感覚を養う事だったと今なら分かるんだけど、小3だったから、理屈とか分からないし、大地達からは遊んでるってからかわれたっけ。
『乗せられるようになったら、今度はバウンドさせてから乗せる、とか、少しずつステップアップしていくといいよ。』
そう言って笑った顔が可愛かったんだよなぁ…覚えてないけど。そう感じた事を覚えてる。
リフティングの練習ばっかしても意味なくね?―――と言われながらも、だんだん上手にボールを扱えるようになってくると、何故かドリブルも上達していった。
自分でちゃんとキープしながら走り、周りに目を配る。
そんな事が出来るようになっていた、と。
だから、Aチームに選ばれたのだ、と。
だいぶ後になってからコーチに言われたんだったっけ…。
まさかそんな事を今頃思い出すなんて。
大地はこの事聞いてたのかな?
大地の性格は、全くと言っていいほど変わってなかった。
俺が俺が―――!ってとにかくがむしゃらに走っていた大地は、よくコーチに周り見ろ!って怒られてたけど、少しは直ったのかな?
だって、“彼”と友達なら成陵に入ったんだよね?
そう思うと不思議な気分だ。確か、成陵は全国選手権狙う位には強かったはず。
練習は結構熱心にやってたから、あれから頑張ったのかもしれないな。
あんな別れ方しちゃったけど、根は悪いヤツじゃなかったハズ…そう思い出してちょっと笑った。
もう、会う事もないんだから、もう、いいじゃん?
『次は~』といつものアナウンスが流れて、降り口側に移動する。
レイちゃんのマンションがある駅のホームが目に入った瞬間、不意に“彼”の言った言葉を思い出した。
―――もう、この駅には来ない。
試験が終わったのなら、部活が始まるんだろう。
そうなれば、帰る時間が遅くなる―――という事だと思うんだけど…?
駅舎を出て、レイちゃんのマンションへ向かう。
エントランスを抜ける前に、メールコーナーへ入った。
メールボックスと宅配ボックスをじっと見つめる。
1F、2F、3F…
最近は色々物騒だからか、表札を出してない人もいたけれど。
―――401 篠崎
一瞬、鼓動が跳ねた。