残念少女は今ドキ王子に興味ありません
にじゅうろく
「ん―――?」
校門付近に人だかりを見つけて目を眇めた。
何だろう?―――と思いながら、通りすがり、横目にその集団を見て足が止まった。
女の子達に囲まれているのは、見覚えのある紺のネクタイ。
認識すると同時に、向こうもこっちに気が付いた。
「シズル!」
空気を読まずに大声で人の名前を呼んだ挙げ句に、囲みをかき分けてこっちへ駆け寄る姿に、思わず逃げ出したくなった。
何でこんなとこにいるんだっ?! 大地っっ!!
「良かった~、もう帰ってたらどうしようかと思った!」
良かった、じゃない!
囲んでたコ達が、こっちを見ながらヒソヒソやってるんだけど?!
そういやコイツ、小っこいけど顔はいいんだよな…。
トップ長めのツーブロックショートをツンツンさせた頭も、くりっとした目も、アイドル並みに可愛いっちゃー可愛い。小っこいけど。
「て言うか、何でまた、ここにいるの?」
「話があるからに決まってるだろ。こないだは、ろくに話せなかったし。」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、拗ねたように言う大地にため息をつく。
「とにかく、ちょっと行こう。ここ目立つから。」
「あー、うん。待って、俺、チャリだから。」
はぁ?と思って見ていると、大地は門柱に凭せかけてた自転車を起こしてサドルを跨いだ。
「乗れよ、後ろ。」
顎で示す大地を半眼で見返す。
だって後ろに付いてるのは、荷台じゃ無くて、後輪軸のバックステップだ。ここに足を乗せてタイヤ跨いで立てって?
何言ってんのコイツ?
「スカートで乗れる訳ないじゃん。」
「えー、お前なら大丈夫だろ?」
「無理。」
ぶった切って歩き出す。
とにかく一刻も早くここから離れたい。
「待てよ。」
「待たない。」
「何だよ。」
「そっちこそ、何?」
「何って…」
ジャッ―――と音を立てて、大地が私の前に自転車で回り込んだ。行く手を遮った上で、こっちを睨み付ける。
あー、もう!!
苛つく気持ちを抑えるようにため息をついた。
「わかったから、ちょっと落ち着けるとこ行こう。もう少し行ったら公園あるし。」
そう言って脇を通り抜けた私に、大地が自転車を降りてついてくるのを確認して、もう一度ため息をついた。
隣を歩く大地はふて腐れた顔をしている。迷惑かけられてるのはこっちだっていうのに、全く、このお子ちゃまめ!!
こういうトコ、あの頃はそこまで気にならなかったのは、自分も子供だったからなのかな。
「大地。」
視線を前に戻して話しかける。大地がこっちを向いたのを感じながら。
「何度も言うけど、私はもうホントに気にしてないから。」
「…でも、怒ってるじゃん?」
「それは、今の大地に対してだよ。私の都合とか、全く無視してるの、分かってないの?」
「都合って、“シノ”と会う事か?」
「は?何言ってんの?」
思わず顔を横に向けると、大地がこっちをチラッと見てから、面白く無さそうに顔を背けた。
「今日、会うんだろ?」
「誰が?」
「お前と、シノが。今日、部長に休むって言ってた。こないだの件で、ケーサツに呼び出されたからっ言って。お前も来んのかって聞いたら、わかんないけど、かもなって…」
言われて逆に思い出した。
そうだ、“外苑前”駅に行かないといけないんだった!
お母さんのオニ顔を思い出して、内心冷や汗をかく。ヤバい、連絡しないと怒られるかも…。
そんな私の顔を、大地が横から覗き込んだ。
「シノと付き合ってんのか?」
「は?いや、待って。何でそんな話になるの?」
「アイツの事、知ってただろ?小学校ん時から。」
「ええ?」
何の事だかさっぱりわからない。
彼に会ったのは、あの時、マンションですれ違ったのが初めて―――そう思い返して、思わず立ち止まった。
あの時、彼はこっちを振り向いた。
あの時、どんな顔してた?
『じゃあな、シズル』
そして彼は、何度も、私の名前を呼んだ。
ゆっくりと、大地の方へ顔を向ける。
「私は、覚えが無い…よ。でも、あっちは名前を知ってた。」
「ああ、それは…俺が教えたから。」
「大地が?何で?」
「そりゃ、聞かれたから。」
大地が肩を竦めた。
「ホントに覚えが無いのか?最初に聞いてきたの、シノの方なんだぜ?あのコどうしたんだって。」
「あのコ?」
「5年ん時。大会で呼び止められて、女子いただろ?って。辞めたって言ったら、ビックリして、そうかって。勿体ないなっ…て。」
最後の方はちょっと小さい声になっていた。
でも、その言葉に、衝撃を受けた。
「…勿体ない?」
思わず聞くと、大地が視線を逸らしたまま頷いた。
「そうだよ、勿体ないって。コーチと同じ事言うから、ちょっと腹立って、そん時は何だコイツってすぐ離れたんだけど。」
そこまで言って、大地はチラッとこっちに視線を走らせた。
「中学で、また一緒んなってさ。そん時また聞かれたんだよ。お前はどうしたんだって。」
思いがけない言葉に呆気に取られて、目を見開いて大地を見つめる事しか出来ない。何で、そこまで?
「ホントに覚え無いのか?」
「え、う、うん…」
「でも、お前4年ん時、すっげーリフティングやってたじゃん?」
「え、あ、あー…」
「アイツに言われたからじゃねぇの?」
「へ?」
多分、いや間違いなく、間の抜けた顔をしてたと思う。
大地は呆れたような顔をして言った。
「だって、言ってたぜ? 師匠!って、すげーしつこかったって…」
「えっ…」
その途端に思い出す、1人の“女の子”
「え、え、え―――っっ!!!」
静かな住宅街に、私の絶叫が鳴り響いた。
校門付近に人だかりを見つけて目を眇めた。
何だろう?―――と思いながら、通りすがり、横目にその集団を見て足が止まった。
女の子達に囲まれているのは、見覚えのある紺のネクタイ。
認識すると同時に、向こうもこっちに気が付いた。
「シズル!」
空気を読まずに大声で人の名前を呼んだ挙げ句に、囲みをかき分けてこっちへ駆け寄る姿に、思わず逃げ出したくなった。
何でこんなとこにいるんだっ?! 大地っっ!!
「良かった~、もう帰ってたらどうしようかと思った!」
良かった、じゃない!
囲んでたコ達が、こっちを見ながらヒソヒソやってるんだけど?!
そういやコイツ、小っこいけど顔はいいんだよな…。
トップ長めのツーブロックショートをツンツンさせた頭も、くりっとした目も、アイドル並みに可愛いっちゃー可愛い。小っこいけど。
「て言うか、何でまた、ここにいるの?」
「話があるからに決まってるだろ。こないだは、ろくに話せなかったし。」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、拗ねたように言う大地にため息をつく。
「とにかく、ちょっと行こう。ここ目立つから。」
「あー、うん。待って、俺、チャリだから。」
はぁ?と思って見ていると、大地は門柱に凭せかけてた自転車を起こしてサドルを跨いだ。
「乗れよ、後ろ。」
顎で示す大地を半眼で見返す。
だって後ろに付いてるのは、荷台じゃ無くて、後輪軸のバックステップだ。ここに足を乗せてタイヤ跨いで立てって?
何言ってんのコイツ?
「スカートで乗れる訳ないじゃん。」
「えー、お前なら大丈夫だろ?」
「無理。」
ぶった切って歩き出す。
とにかく一刻も早くここから離れたい。
「待てよ。」
「待たない。」
「何だよ。」
「そっちこそ、何?」
「何って…」
ジャッ―――と音を立てて、大地が私の前に自転車で回り込んだ。行く手を遮った上で、こっちを睨み付ける。
あー、もう!!
苛つく気持ちを抑えるようにため息をついた。
「わかったから、ちょっと落ち着けるとこ行こう。もう少し行ったら公園あるし。」
そう言って脇を通り抜けた私に、大地が自転車を降りてついてくるのを確認して、もう一度ため息をついた。
隣を歩く大地はふて腐れた顔をしている。迷惑かけられてるのはこっちだっていうのに、全く、このお子ちゃまめ!!
こういうトコ、あの頃はそこまで気にならなかったのは、自分も子供だったからなのかな。
「大地。」
視線を前に戻して話しかける。大地がこっちを向いたのを感じながら。
「何度も言うけど、私はもうホントに気にしてないから。」
「…でも、怒ってるじゃん?」
「それは、今の大地に対してだよ。私の都合とか、全く無視してるの、分かってないの?」
「都合って、“シノ”と会う事か?」
「は?何言ってんの?」
思わず顔を横に向けると、大地がこっちをチラッと見てから、面白く無さそうに顔を背けた。
「今日、会うんだろ?」
「誰が?」
「お前と、シノが。今日、部長に休むって言ってた。こないだの件で、ケーサツに呼び出されたからっ言って。お前も来んのかって聞いたら、わかんないけど、かもなって…」
言われて逆に思い出した。
そうだ、“外苑前”駅に行かないといけないんだった!
お母さんのオニ顔を思い出して、内心冷や汗をかく。ヤバい、連絡しないと怒られるかも…。
そんな私の顔を、大地が横から覗き込んだ。
「シノと付き合ってんのか?」
「は?いや、待って。何でそんな話になるの?」
「アイツの事、知ってただろ?小学校ん時から。」
「ええ?」
何の事だかさっぱりわからない。
彼に会ったのは、あの時、マンションですれ違ったのが初めて―――そう思い返して、思わず立ち止まった。
あの時、彼はこっちを振り向いた。
あの時、どんな顔してた?
『じゃあな、シズル』
そして彼は、何度も、私の名前を呼んだ。
ゆっくりと、大地の方へ顔を向ける。
「私は、覚えが無い…よ。でも、あっちは名前を知ってた。」
「ああ、それは…俺が教えたから。」
「大地が?何で?」
「そりゃ、聞かれたから。」
大地が肩を竦めた。
「ホントに覚えが無いのか?最初に聞いてきたの、シノの方なんだぜ?あのコどうしたんだって。」
「あのコ?」
「5年ん時。大会で呼び止められて、女子いただろ?って。辞めたって言ったら、ビックリして、そうかって。勿体ないなっ…て。」
最後の方はちょっと小さい声になっていた。
でも、その言葉に、衝撃を受けた。
「…勿体ない?」
思わず聞くと、大地が視線を逸らしたまま頷いた。
「そうだよ、勿体ないって。コーチと同じ事言うから、ちょっと腹立って、そん時は何だコイツってすぐ離れたんだけど。」
そこまで言って、大地はチラッとこっちに視線を走らせた。
「中学で、また一緒んなってさ。そん時また聞かれたんだよ。お前はどうしたんだって。」
思いがけない言葉に呆気に取られて、目を見開いて大地を見つめる事しか出来ない。何で、そこまで?
「ホントに覚え無いのか?」
「え、う、うん…」
「でも、お前4年ん時、すっげーリフティングやってたじゃん?」
「え、あ、あー…」
「アイツに言われたからじゃねぇの?」
「へ?」
多分、いや間違いなく、間の抜けた顔をしてたと思う。
大地は呆れたような顔をして言った。
「だって、言ってたぜ? 師匠!って、すげーしつこかったって…」
「えっ…」
その途端に思い出す、1人の“女の子”
「え、え、え―――っっ!!!」
静かな住宅街に、私の絶叫が鳴り響いた。