残念少女は今ドキ王子に興味ありません
はち
『えぇっ、俺1人でこれ全部食うとかって、罰ゲームじゃん!』
そう叫んだのは、チームのフォワードで、割と息が合ってると自分の方では思ってたヤツだった。
―――本日ポイント2倍デー!
そう書かれたのぼりに惹かれて、ドラッグストアに入った。そろそろ洗顔フォーム買わなきゃいけなかったから、ちょうどいいや。
『シミも皺もね、出来てから治そうなんて無理だからね!若いウチからのお手入れが大事なのよ!』
と言うレイちゃんの教えを守って、小学生の頃から泡洗顔だ。今でこそ、たっぷりの泡で肌を直接擦らない様に洗顔するのは当たり前になってるけど、レイちゃんが学生の頃はスクラブ洗顔が流行ったりもしてて、皆ゴシゴシ洗ってたらしい。
私も小学4年生までは、洗顔なんて水でザバザバ洗うぐらいで、全く気になんてしてなかったんだよね。日焼け止めも全然使ってなくて、年中真っ黒だったし。
髪もショートカットで、弟と歩いていたら、兄弟だと思われる位、女らしさなんて皆無だったから、だから、無理も無かったっちゃー、無かったのかな…。
小学生時代の黒歴史が蘇って、地味にヘコんだ。
「賭けてる?」
「うん…。ほら、あの女オトせるかどうかとか、ベタなヤツ?」
「……」
自分では冗談みたいに軽く言ったつもりだったけど、2人が何だかシリアスモードになっちゃったので口を噤んだ。
しまったな…と思ったけど、仕方ない、か。
「…何か、そういう事、あったりとか…?」
リコが恐る恐るというカンジに聞いてくるから、エヘヘと笑ってみせる。
「あー、うん、小学校ん時にね?ちょっと…」
昔の事だよ~と笑い飛ばすつもりだったのに、次の瞬間、ガバッとスゴい勢いで抱き竦められた。―――ユウキに。
「ちょっ、ユウキ?!」
「心配すんな!アンタはあたしが守ったげる!! ヤローなんか相手すんな!!」
「あ、うん、ありがとう…?」
取り敢えず、リコを喜ばすだけだから離そうか?
ここに“シロ君”居てくれたら引き剥がしてくれるんだけどな~なんて思いながらユウキの背中をポンポンと叩く。
「もしかして、それで東一中(いっちゅー)来てたの?」
体を離したユウキに覗き込まれてつい視線を逸らすと、ユウキがため息をついた。
ユウキと出会ったのは東第一中学校―――私はここに、学区外から通っていた。小学校は住民票がある所にしか行けないけど、中学は学区外でも空きがあれば入れて貰える。
公立校は学校によってレベルが変わるから、高校受験対策とかスポーツ部の強いとことか、様々な理由で越境する生徒は少なくない。
ユウキはバレーの強い所という理由だろうと推察出来たから、敢えて聞かなかったし、だからユウキも聞いては来なかったよね。
「タダの男嫌いなんだと思ってたら…なんで言わないの?」
「いや、別に必要無いかなって…。大体、ここ入ってからだよ?何かやたらと声かけられる様になったの。多分、制服のせい「何言ってんの」」
遮られて見上げると、ユウキがまたため息をつく。
「東一中ん時は、あたしとシロで蹴散らしてたんだよ。特に上級生とかウザかったからね。」
「えっ、そうなの?」
知らなかった…。中学校にもなると、彼氏彼女になるコ達が結構居たけど、自分には全くお呼びがかからなかったから、単純に女の範疇に入ってないんだと思ってたのに。
「ああ、まあ、うん、同学年はね。アンタの中身知ってたから…」
ソウデスカ…まあ、いいけど。
確かに何もしなくても、ユウキとシロ君が揃って立ってると迫力あるもんなぁ…。
シロ君はユウキと同じバレー部のアタッカーで、1つ下の男の子だけど、ユウキに引けを取らない高身長だ。卒業前に抜かれたって、悔しがってたもんね。
無口で強面だけど、中身はオカン―――とユウキは笑うけど、単純に“彼女”の世話が焼きたいんだよ、シロ君は。
「ま、取り敢えず、今日からはアタシと帰ろう。」
「は?いや、ちょっと待って。部活どうすんの?」
「終わるまで図書館で待ってて」
「ええっ、やだよ~! 夜になるじゃん!!」
ウチのバレー部は全国狙うような強豪なのだ。
当然、練習も厳しいし、かなり遅くまでやってるの知ってるんだよ?ムリ!!
「あ~、じゃあ、アタシと帰る?」
にへらっと笑ったリコを半眼で見る。
「こないだ泊まり込もうとして、顧問に怒られたんじゃなかったっけ?まだ予選の結果出ないの?」
「あー、うん、今月審査。」
「本選に備えて練習するって言ってたじゃん?」
「うん…」
えへへ…と笑うリコは美術部所属だ。
美術部―――とは言っても、やってることはほぼ漫画描きだ。毎年、まんが甲子園にも応募してる位、そっちに特化した人間の集まりなんだもん、正直、もう“マン研”でいいと思う。
私はふう、とため息をついてみせた。
「大丈夫だよ、そんな心配しなくても。それこそ漫画じゃないんだから、タダの偶然だよ、うん。」
心配かけてゴメン―――そう言って、2人に微笑んで見せた。
その時の2人の、何とも言えない困り顔を思い出しながら、洗顔フォームを籠に入れる。後は―――ヘアオイルも買っておこうかな。
ホントは―――
ホントは、あの時。
無遠慮に近付いてきた事、とか。
本を片手にニヤニヤ笑ってた時、とか。
小学生時代とは違う、男と女の違いをまざまざと感じて、足が震えるぐらい怖かった…何て事はナイショだ。
これ以上2人に心配かけちゃいけない。
大丈夫、漫画じゃないんだから。
多分、アイツはもう来ないだろうし、あの彼にも、もう会う事は無いはず。
それなのに。
ヘアケア商品の棚へと曲がって、直ぐに立ち止まった。
―――嘘でしょ?
そう叫んだのは、チームのフォワードで、割と息が合ってると自分の方では思ってたヤツだった。
―――本日ポイント2倍デー!
そう書かれたのぼりに惹かれて、ドラッグストアに入った。そろそろ洗顔フォーム買わなきゃいけなかったから、ちょうどいいや。
『シミも皺もね、出来てから治そうなんて無理だからね!若いウチからのお手入れが大事なのよ!』
と言うレイちゃんの教えを守って、小学生の頃から泡洗顔だ。今でこそ、たっぷりの泡で肌を直接擦らない様に洗顔するのは当たり前になってるけど、レイちゃんが学生の頃はスクラブ洗顔が流行ったりもしてて、皆ゴシゴシ洗ってたらしい。
私も小学4年生までは、洗顔なんて水でザバザバ洗うぐらいで、全く気になんてしてなかったんだよね。日焼け止めも全然使ってなくて、年中真っ黒だったし。
髪もショートカットで、弟と歩いていたら、兄弟だと思われる位、女らしさなんて皆無だったから、だから、無理も無かったっちゃー、無かったのかな…。
小学生時代の黒歴史が蘇って、地味にヘコんだ。
「賭けてる?」
「うん…。ほら、あの女オトせるかどうかとか、ベタなヤツ?」
「……」
自分では冗談みたいに軽く言ったつもりだったけど、2人が何だかシリアスモードになっちゃったので口を噤んだ。
しまったな…と思ったけど、仕方ない、か。
「…何か、そういう事、あったりとか…?」
リコが恐る恐るというカンジに聞いてくるから、エヘヘと笑ってみせる。
「あー、うん、小学校ん時にね?ちょっと…」
昔の事だよ~と笑い飛ばすつもりだったのに、次の瞬間、ガバッとスゴい勢いで抱き竦められた。―――ユウキに。
「ちょっ、ユウキ?!」
「心配すんな!アンタはあたしが守ったげる!! ヤローなんか相手すんな!!」
「あ、うん、ありがとう…?」
取り敢えず、リコを喜ばすだけだから離そうか?
ここに“シロ君”居てくれたら引き剥がしてくれるんだけどな~なんて思いながらユウキの背中をポンポンと叩く。
「もしかして、それで東一中(いっちゅー)来てたの?」
体を離したユウキに覗き込まれてつい視線を逸らすと、ユウキがため息をついた。
ユウキと出会ったのは東第一中学校―――私はここに、学区外から通っていた。小学校は住民票がある所にしか行けないけど、中学は学区外でも空きがあれば入れて貰える。
公立校は学校によってレベルが変わるから、高校受験対策とかスポーツ部の強いとことか、様々な理由で越境する生徒は少なくない。
ユウキはバレーの強い所という理由だろうと推察出来たから、敢えて聞かなかったし、だからユウキも聞いては来なかったよね。
「タダの男嫌いなんだと思ってたら…なんで言わないの?」
「いや、別に必要無いかなって…。大体、ここ入ってからだよ?何かやたらと声かけられる様になったの。多分、制服のせい「何言ってんの」」
遮られて見上げると、ユウキがまたため息をつく。
「東一中ん時は、あたしとシロで蹴散らしてたんだよ。特に上級生とかウザかったからね。」
「えっ、そうなの?」
知らなかった…。中学校にもなると、彼氏彼女になるコ達が結構居たけど、自分には全くお呼びがかからなかったから、単純に女の範疇に入ってないんだと思ってたのに。
「ああ、まあ、うん、同学年はね。アンタの中身知ってたから…」
ソウデスカ…まあ、いいけど。
確かに何もしなくても、ユウキとシロ君が揃って立ってると迫力あるもんなぁ…。
シロ君はユウキと同じバレー部のアタッカーで、1つ下の男の子だけど、ユウキに引けを取らない高身長だ。卒業前に抜かれたって、悔しがってたもんね。
無口で強面だけど、中身はオカン―――とユウキは笑うけど、単純に“彼女”の世話が焼きたいんだよ、シロ君は。
「ま、取り敢えず、今日からはアタシと帰ろう。」
「は?いや、ちょっと待って。部活どうすんの?」
「終わるまで図書館で待ってて」
「ええっ、やだよ~! 夜になるじゃん!!」
ウチのバレー部は全国狙うような強豪なのだ。
当然、練習も厳しいし、かなり遅くまでやってるの知ってるんだよ?ムリ!!
「あ~、じゃあ、アタシと帰る?」
にへらっと笑ったリコを半眼で見る。
「こないだ泊まり込もうとして、顧問に怒られたんじゃなかったっけ?まだ予選の結果出ないの?」
「あー、うん、今月審査。」
「本選に備えて練習するって言ってたじゃん?」
「うん…」
えへへ…と笑うリコは美術部所属だ。
美術部―――とは言っても、やってることはほぼ漫画描きだ。毎年、まんが甲子園にも応募してる位、そっちに特化した人間の集まりなんだもん、正直、もう“マン研”でいいと思う。
私はふう、とため息をついてみせた。
「大丈夫だよ、そんな心配しなくても。それこそ漫画じゃないんだから、タダの偶然だよ、うん。」
心配かけてゴメン―――そう言って、2人に微笑んで見せた。
その時の2人の、何とも言えない困り顔を思い出しながら、洗顔フォームを籠に入れる。後は―――ヘアオイルも買っておこうかな。
ホントは―――
ホントは、あの時。
無遠慮に近付いてきた事、とか。
本を片手にニヤニヤ笑ってた時、とか。
小学生時代とは違う、男と女の違いをまざまざと感じて、足が震えるぐらい怖かった…何て事はナイショだ。
これ以上2人に心配かけちゃいけない。
大丈夫、漫画じゃないんだから。
多分、アイツはもう来ないだろうし、あの彼にも、もう会う事は無いはず。
それなのに。
ヘアケア商品の棚へと曲がって、直ぐに立ち止まった。
―――嘘でしょ?