一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
☆困ります
「明日、午前十時、事務所の玄関ホールに集合ね」
にっこりそう言い残し、晴正さんは執務室を後にした。
突然の一方的なお申し出に、私は反応出来ないまま、呆然と閉まったドアを見つめている。
明日、何か打ち合わせが入っていたのかしら。
普段からあまりパラリーガルを同行させない晴正さん。珍しく私が同行する案件なのかしら。
そう思って彼のスケジュールを確認するも、明日は休日。
ここ数日、彼は私を避けていたのではないかと思う。残業ばかりで帰宅も遅いし、朝食も以前より会話が弾まない。
私の気持ちに気付いて、気まずいのだと思う。
あの日、キスをしてくれたのは、私に同情して……それを後悔しているとか?
だから、もしかしたら。
血の気が引いていく。
オフィスの外は真夏。きっと今夜も熱帯夜だろう。でも私は心身ともにヒンヤリと冷えていくのを感じていた。
私は明日、この偽の婚約を解雇されるのだ。
晴正さんへの気持ちを、気付いて間もない今で良かったのかもしれない。
今ならきっと、無かったことに出来るから。
きっと、すぐに、忘れられるから。