一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 でも、それも良いかもしれない。きっとこの先、私の人生には、晴正さん以上に大切に思える方はいないだろうから。
 恋は二次元で済まして、現実では何か仕事に打ち込んで。

──だから、今は。

 今はこの現実の恋を、楽しむことにしよう。決して、叶わないけれど。



 晴正さんの運転でやってきたのは、水族館。
 目の前には海。真っ青な空と深い碧の海が美しい。景色もとても綺麗だ。

 チケットは既に購入してくださっていたようで、大変スマートにエスコートしてもらっている。

 なんだかデートに慣れている晴正さんに、モヤモヤしてしまう。

「みてみて! 美月! イワシの群れ!」

 晴正さんのはしゃいだ声。大きな水槽にイワシがキラキラと輝いている。

「マンタもいる! ウミガメ! ウミガメ!」
「ふふっ。晴正さん、水族館がお好きなんですね」
 
 つい、はしゃぐ姿が可愛らしくて笑うと、晴正さんが繋いだ手をギュッと握りしめてきた。

「美月とデートするのなら、何処だって嬉しいし、楽しいよ」

 そう言って微笑む彼は、先程のはしゃいだ姿とはガラリと違って見えた。男性の、甘やかな微笑みにこれほど破壊力があるとは。ドキドキして、今日は心臓が壊れそうだ。

「美月、みて?」
「わぁ……」

 大水槽から少し歩くと、そこは水槽のトンネルのようになっていた。まるで魚たちがキラキラした空を飛んでいるかのよう。

「星みたい」

 そして、夢みたい。こうして好きな人と水族館デートができる日が来るなんて。
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