一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
しかしある日、噂を知った。
『高峰美月は、この成沢法律事務所の所長、成沢誠の愛人』だと。
年の差がありすぎるし、所長は既婚者だ。ありえないと思っていた。だか、ある日、俺は決定的瞬間を目撃したのだった。
その日も徹夜で仕事をしていて、シャワールームに向かおうとしていた時だ。人気のない、早朝の事務所。珍しく人の気配がした。壁際で思わず立ち止まると、成沢所長の声がした。
「美月!」
成沢所長が下の名前で彼女を呼んだ。
「ちょっと所長! ここ職場ですよ! 馴れ馴れしくしたらダメです!」
「ごめんごめん! 美月のことはみんなに内緒だったな!」
そう言って彼女の頭をポンポンしている所長。それを許す彼女。
男性と話すのが苦手だと言っていた彼女の、自分と話すときとは違う「慣れ」を感じた。
親しい間柄なのだ、と痛感して、いたたまれずにその場を立ち去った。
*
だが、その後どれだけ時間が経っても、俺は彼女のことを諦めきれなかった。
所長はいつまでも離婚しなかったからだ。
それどころかデスクに奥様との仲睦まじい写真を飾っていたり、愛妻弁当を広げたり。彼女の気持ちを考えると悔しかった。
この事務所を出て独立できるような実力のある弁護士になって、そして想いを伝えよう。不倫なんてやめて、俺についてこいって、なんとか説得して。
俺だけのものに、したい。
そう思ってはや五年目。まだ一人前とは言えない。
だけど。
この春から彼女は俺の専属パラリーガルになった。前にも増して顔を合わす機会が増えたことに比例して、最近は気持ちが抑えられなくなってきた。
しかしごくたまに、彼女は携帯を見てニコニコしている時がある。照れているような表情のことも。恐らくまだ、所長と続いているのだろう。
そう自分の中で何度目かの結論に辿り着いて、また、絶望した。
『高峰美月は、この成沢法律事務所の所長、成沢誠の愛人』だと。
年の差がありすぎるし、所長は既婚者だ。ありえないと思っていた。だか、ある日、俺は決定的瞬間を目撃したのだった。
その日も徹夜で仕事をしていて、シャワールームに向かおうとしていた時だ。人気のない、早朝の事務所。珍しく人の気配がした。壁際で思わず立ち止まると、成沢所長の声がした。
「美月!」
成沢所長が下の名前で彼女を呼んだ。
「ちょっと所長! ここ職場ですよ! 馴れ馴れしくしたらダメです!」
「ごめんごめん! 美月のことはみんなに内緒だったな!」
そう言って彼女の頭をポンポンしている所長。それを許す彼女。
男性と話すのが苦手だと言っていた彼女の、自分と話すときとは違う「慣れ」を感じた。
親しい間柄なのだ、と痛感して、いたたまれずにその場を立ち去った。
*
だが、その後どれだけ時間が経っても、俺は彼女のことを諦めきれなかった。
所長はいつまでも離婚しなかったからだ。
それどころかデスクに奥様との仲睦まじい写真を飾っていたり、愛妻弁当を広げたり。彼女の気持ちを考えると悔しかった。
この事務所を出て独立できるような実力のある弁護士になって、そして想いを伝えよう。不倫なんてやめて、俺についてこいって、なんとか説得して。
俺だけのものに、したい。
そう思ってはや五年目。まだ一人前とは言えない。
だけど。
この春から彼女は俺の専属パラリーガルになった。前にも増して顔を合わす機会が増えたことに比例して、最近は気持ちが抑えられなくなってきた。
しかしごくたまに、彼女は携帯を見てニコニコしている時がある。照れているような表情のことも。恐らくまだ、所長と続いているのだろう。
そう自分の中で何度目かの結論に辿り着いて、また、絶望した。