一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 ついに彼女の瞳から涙が零れ落ちる。

「信じられないわっ。突然降って湧いた貴女が!? ただのパラリーガルだっていうし、顔だってスタイルだって私の方が!」

 確かに。全てにおいて彼女の方が優勢だ。

「それにっ! 貴女婚約指輪だってしてないじゃない!」
「……それは……私が辞退したので……」

 晴正さんは贈りたいと言ってくれたが、おそらく期間限定だし、それにしては高い買い物なので、以前お断りしたのだ。
 そうか、指輪をすることで、婚約にも信憑性が生まれるのか。勉強になります……。

 騙しているのが心苦しくなってきた。この方も私と同じで、晴正さんのことが好きで。

 私だってこの役目を終えたら、いつかこの人のように泣くのだろう。彼とその横に立つ女性を羨ましく眺めるのだわ。
 この方は、未来の私だ……。

 そっとハンカチを差し出す。

「……なんで貴女も泣いてるのよ……」

「あっあれ? あ、でもまだこのハンカチ使ってないので……どうぞ……」

 呆れた顔でハンカチを受け取った彼女は、化粧室を去って行った。

「またお化粧直さないと……」

 鏡に映る私は、泣いている彼女よりも醜く、ひどくちっぽけに見えた。
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