一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
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その日、久々に晴正さんは早い時間に帰宅した。しかし、その顔は固い。何か困った案件を抱えていただろうか? 瞬時に彼の今のペンディング案件を思い浮かべるが、それほど難航したものはないように思えた。どうしたのだろう。
晴正さんは、着替えもせずに、リビングのソファに座った。そして、私にも座るよう促す。
「美月は俺に隠してること、ある?」
「?!」
ついにこの日が来てしまった。
オタクであることが、バレたに違いない。晴正さんにとって、オタクであることは許し難いことだったのかもしれない。それよりも、隠し事をしていたことに腹を立てているのかも。
「……あ、あります」
消え入るような声でそう答えると、彼は一瞬驚いた顔をして、そうしてとても悲痛な表情へと変わった。
「この生活、実は嫌なんじゃない? 無理してるよね?」
オタク生活を隠しながらイベントやガチャをしていたことまで、バレてしまったのだろうか。確かに、晴正さんに隠れてイベントをこなすのは難しい。ガチャの時間に間に合わないこともある。
だけど、最近は晴正さんとの時間の方が大切な時間になっていた。決して無理はしていないつもりだ。
「いえ! あの、時間は選んでますし、家事はちゃんと出来てます! 嫌じゃないです!」
「でも俺より会いたいやつがいるんだろ?」
「そんなことありません!」
言い方がまずかっただろうか。晴正さんが、とても傷ついた顔をしている。どうしよう。
「それは、俺がお見合いの危機から救ったから? 事務所の弁護士だから?」
「え?」
「イケメンの方が良いんじゃないの?」
「イケメンでも、疑似恋愛みたいなもので……、本物ではなくて……えっと、その……」
どう説明したらいいか分からない。突然のことで気が動転している。うまく口が回らない。
「俺は、嘘は、嫌だ」
「!!」
晴正さんは、今にも泣きそうな顔をしている。そんなに嘘が嫌いだったのか。だとしたら、本当に私は、ここにいるべきではない。
「……晴正さんは、お見合いしたかったですか?」
「え?」
「父に、お見合いを勧められていたんでしょう? お見合いしたかったですか?」
「したかったよ」
苦しそうにそう言った晴正さんは、「ちょっと頭冷やしてくる」と言って、また外出していった。
そしてそのまま、その日は、晴正さんは帰ってこなかった。
きっと後悔しているのだろう。
オタクだからって拒絶するような人ではない。わたしが隠し事をしていたことが、受け入れられないのだろう。
お見合いしたかったと告げた晴正さんは、とても苦しそうだった。
ならば、私は、身を引かなくちゃ。
翌朝、泣きながら荷造りをして、私は晴正さんと暮らしたマンションを後にした。