一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

⭐︎好きだから怖いです

「姉ちゃん、今日も来てるみたいだけど?」
「……」

 晴正さんの家を出て五日。あれから毎日、晴正さんは実家に来ては、私と話をさせてくれと訴えている。

「お願いします! もう一度だけ、美月さんとお話させてください!」

「自分勝手なのは承知しています! でもどうしても諦められないんです!」

「美月さんに会わせてください!」

「何度でも来ます!」

 いろいろな言葉を尽くして、毎日。いろんな時間に。仕事が忙しいはずなのに、本当に何日も通っている。
 その度に、父や母、藤島さんが追い返している。申し訳ないけれど、何を話せばいいのか、私に、もう一度晴正さんとお会いする資格があるのか、不安になって会えずにいた。

 愛海さんも式が近いというのに、何度か足を運んでくださって話を聞いてくれた。
「あいつがここまでバカだとは思わなかった」と呆れた後、「あいつの気持ちはちゃんと本人から聞いた方が、美月もスッキリすると思うよ」とアドバイスをいただいた。

 でも、会うのが怖い。

 貯めていた有給を消化していたが、これ以上はさすがにご迷惑をかけ過ぎてしまう。辞めない選択をするのなら、月曜日から出勤しなくては。

 何事もなかったかのように、接することができるかな。

 ううん、隠し事をしていたんだから、謝らなくちゃ……。

 もし、嫌われたのなら。冷たい目線を向けられたら。想像するだけで、怖い。

 不安だらけの土曜日。
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