一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

 本当は、分かっているのだ。会わなくちゃ。会って話さなくちゃいけないと。きちんと言葉にして謝罪しなければ。

 出会った頃のように、彼は今無茶をしている。私のせいで。

 会わなくちゃ。

 でも、怖さが身体中を駆け巡るのだ。

 晴正さんは、私と何を話したくて通っているのだろうか? 
 隠し事をしていた私を糾弾したくて? 偽装婚約を正式に終わりにするため? 分からない。

 はっきりと、彼の口から、終わりと言われるのが怖い。
 
 私には、それを受け止めるほどの覚悟が、まだなかった。
 思っていた以上に、私は、晴正さんのことが、好きになっていたのだ。

「晴正さん……」

 水族館デートの時の、彼の笑顔を思い出す。あんなにはしゃぐ笑顔は、もう二度と見られないのだ。

「晴正さんっ……っ、ふっ……」

 泣いても仕方ないのに、涙が出る。
 怖がってばかりの自分に嫌気が差す。
 鳴り響いていたインターフォンが止み、彼が今日も諦めたのだと知ると、罪悪感と安堵で、また頬を濡らした。
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