一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「姉ちゃん、入るぞー」

 誰にも見られないように気をつけながら家の中に侵入し、静かにここまで進んできたというのに、弟くん(仮)は、豪快に美月の部屋のドアを開けた。
 
 久しぶりに見た美月は、可愛らしい薄ピンクのマットの上で、小さく丸まって泣いている。
 顔を見られたくないのか、こちらを見ないまま、「守くん、勝手に入ってこないで」と力無く呟いた。

「俺、姉ちゃんのこと好きだぞ」

 突然の彼の告白にギョッとする。義理の弟って、結婚、できるんだっけ!? やっぱりそういう関係なのか?!

「……ありがとう」

 美月は言われ慣れているのか、対して驚かず、うずくまった体勢のまま、お礼を言った。

「だからさー、まじ姉ちゃんが泣いてるのとか無理なの」

 弟くん(仮)は、そのままナチュラルに気だるい雰囲気で続ける。

「それで、見てらんないから、この人連れてきちゃった! 何かされそうになったら叫んでー。でも、今叫ぶとコイツ母さんに殺されるから内密に」

「っ!!!」

 やっとこちらを見た彼女は、少し痩せてみえた。目を見開いて、俺と目が合うとさっと逸らす。
 弟くん(仮)は、俺を部屋の中に押し込むと、「健闘を祈ります。まじで」と小声で囁いた。

「じゃあごゆっくりー」

バタン。

 そうして扉が閉められ、俺と美月は一週間ぶりに二人きりになったのだった。
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