一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 何から話せばいいか戸惑いつつ、あまり部屋の中をキョロキョロ見てはいけないと思い、彼女だけを真っ直ぐ見つめる。

「……突然、押しかけてごめん」
「……私こそ、何度も来てくださったのに、お会いしなくて……ごめんなさい」

 美月は泣いていた様子で、さっと涙を拭うと、可愛らしいピンクの座布団を敷いてくれた。座ってよいという意思表示だと勝手に解釈して、ありがたく座る。

 まずは、事実確認をしよう。

「さっきの男の子は……」
「弟です」
「!」

 やっぱり美月に戸籍謄本を見せて貰えばよかった!

 所長は奥様との惚気ばかり話してるし、以前は美月と不倫していると勘違いしていたので、所長に極力関わらないようにしてきたことが仇となった。所長の家族構成なんて全く知らなかった。
 美月に義兄弟がいることなど、想像出来ていなかった。

「ごめん! この前、彼といる美月を街で見て、かなり嫉妬して動揺して。それでこの間、隠し事がないか、聞いたんだ」
「え……?」
「弟さんは、義理の弟だよな? 恋人関係だったり──」
「しませんよ!」

 即座に否定してくれた。ホッとする。

「本当にごめん! 勘違いしてた。美月が弟くんと仲良さそうに街を歩いていて、嫉妬した。俺だけが、特別だと自惚れてたんだって、悲しくなって……。疑ってごめん。許してほしい」
「……そんな、謝らないでください」
「俺は、美月とこれからも暮らしたい。美月の一番近くにいたい。俺じゃ、ダメかな?」

 美月は信じられないものを見ているような顔をしている。美月の手をそっと握ると、意を決したかのような顔つきで、重々しく彼女が口を開いた。
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