一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「……晴正さんは、あの方とお見合いしたかったんですよね?」
「見合い?」
あの方? 俺が見合いをしたかった? 何のことだか分からない。
「聞いてしまったんです。馬場コーポーレーションの御令嬢から、晴正さんとお見合いするはずだったって。それで、所長室にいらっしゃる時に、晴正さんが『見合いすればよかった』って言ってるのを聞いてしまって……」
「違う! 俺が、お見合いしたかった相手は美月だよ。美月がおかあさんから電話で言われていた見合いの相手は、俺だったんだって。この間、所長に聞いて、お見合いすれば良かったって、思った」
「え?!」
「馬場コーポレーションの御令嬢のことは、きちんと毎回お断りしてきたし、これからも何か申し出があっても断るつもりだ」
きっぱりとそう言うと、美月はどこかほっとした表情になった。
「ご両親を騙す形で始まった偽装婚約だけど、俺は美月をずっと、もうずっと前から、好きだった」
やっと言葉に出来た。言葉にして彼女に伝えることが出来た。
彼女は驚いた顔のまま、綺麗な雫で頬を濡らす。嬉し涙だったらいいのにと願いながら、俺はそれを優しく手で拭った。
「美月と、もし見合いをしていたら、結婚前提で即付き合えたかもしれないな、と思って。それで、『見合いしたかった』って言った。あの日、美月が聞いた見合いのことも、そのことだと思ってたんだけど……」
美月は恥ずかしそうに、「私も勘違いしていたんですね……」と呟いた。
「美月が、新人として事務所に入った頃から、ずっと君だけを見ていた。俺が好きなのは、美月だ」
「!」
「だから、前にこのお家にお邪魔して、ご両親に言ったことも、嘘じゃない。君のことをずっと好きだったのも、結婚前提で付き合いたいと思っていたのも、全部本当の俺の気持ち」
溢れた想いを、美月は、受け止めてくれるだろうか。