一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 結局、私から両親に、「会わせたい人がいる」と連絡した。西園寺先生が申し出てくださった通り、今週末に実家に二人で出向くことになってしまったのだった。

「あ、あの、本当によかったのでしょうか……」
「もちろん。俺にもメリットがある話だから、高峰さんは気にしないで。それより、付き合い始めた男女として、色々情報共有をしておきたいんだけど」

 さすが我が事務所のエース弁護士。私たちが偽装で付き合うことがバレないよう、お互いのことを知ることになった。

 私が今も実家住まいで、門限も厳しく飲み会ですら制限されてきたことや、中高大と女学校に通学したため、男性に免疫がなく、男性が苦手であることも改めて話す。

「じゃあ、男をご実家に連れて行くのは?」
「西園寺先生が初めて、です……」
「そ、そうなんだ……」

 不自然に先生は俯いた。私が男性経験が全く無いと悟り、気まずいのかもしれない。

「で、ですから、母がどう出るか、全く予想が出来ません」
「お父様よりお母様の方が心配?」

 我が家は母にベタ惚れの父と、絶対君主の母というパワーバランスで、母の意見が通らなかったことはない。こうと決めたら誰も逆らえないし、逆らうこともなく生きてきた。
でも──。

「母はこうと思ったら必ず成し遂げるすごい人です。母が見合いをすると決めていたら、覆すのは、大変だと思います」
「そうかぁ。ま、頑張って、高峰さんの見合いは必ず阻止するから。安心して」

 西園寺先生は、そう言って笑った。
 少し照れた表情の先生の眼差しが、優しくて温かくて。あまりに頼もしいので、先生が担当するクライアントの方々が、先生のファンになる理由がなんとなく分かったのだった。
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