一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「……ところで西園寺くん」

 少し低い声で所長が俺を呼んだ。先程までのラブラブな声とは大違いだ。自然とこちらも背筋を伸ばし向き直る。

「はい」
「君はいつからうちの娘と交際していたのかな?」

(むすめ!!)

 その言葉を聞いて、心の中は歓喜で満ち溢れた。

(高峰さんと所長は不倫関係ではない!)

 親しい雰囲気だったのは、きっと親子だからだ。何故異なる名字を名乗っているのかは分からないが、仕事熱心でプライベートなことをあまり語らない彼女のことだ。親子ということを隠したかったのかも。

 それならば。彼女を俺のものにするために、この口を動かすのみ。

「はい、実はつい先日からです。しかし、私は美月さんのことを随分前から女性として意識してきました。彼女が私の専属パラリーガルになって一緒に仕事をしていくうちに、生涯を共に生きていきたいと思うようになり、結婚を前提に交際を申し込んだ次第です」

 今度は高峰さんが驚いた顔をしている。ほぼ事実ですよ。でもそんなに驚くと疑われてしまうよ。
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