一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
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⭐︎羨ましいです
週明けの早朝、まだ気温が上がりきらないうちに自宅を出発。蝉は既に通常運転で、八月の暑さを際立たせている。
幸い職場は地下鉄の出口からすぐの高層ビルなので、その暑さを感じるのは一瞬だ。ビルの十階から十五階に、私の職場である、成沢法律事務所が入っている。
成沢法律事務所は、個人向けの離婚調停や民事裁判はもちろん、刑事裁判、大手企業の顧問やM&Aなど、その業務は多岐に渡り、海外にも拠点を持つ大手法律事務所だ。
私はそこでパラリーガルをしている。
パラリーガルとは、弁護士の手となり足となりサポートする立場の人間だ。書類のコピーなどの雑用から、弁護士のスケジュール管理といった秘書のようなことまで様々な業務を行う。所謂、何でも屋さんだ。
この春から私が担当している弁護士は、西園寺晴正先生。
西園寺先生は、当事務所で最も多忙な弁護士。その専属に指名されたのは、『頼れるパラリーガルである』と認められたような気がして、とても誇らしい気持ちになった。
私は事務所に着くと、すぐ給湯室で濃いコーヒーを淹れ、西園寺先生のお部屋へ向かった。ここでは弁護士一人一人に、打ち合わせや面談が可能な個室が与えられている。
西園寺先生の部屋は、十二階、一番奥の角部屋だ。
コンコン
「失礼します」
まだ始業時間まで一時間以上あるにもかかわらず、案の定、既に集中して仕事をしている西園寺先生がいた。
「おはようございます、西園寺先生。コーヒーをお持ちしました」
「……もうそんな時間かぁ。おはよう、高峰さん」
イケメンが微笑みながら朝の挨拶を返してきた。朝日が窓いっぱいに広がっているので、後光が差しているよう。
(ま、まぶしい!)
短髪の黒髪が爽やかに揺れ、キリッとした二重の瞳を優しく細めて笑う。白のワイシャツを腕まくりしており、そこから覗く腕は筋肉質で、その綺麗なお顔立ちとは少しギャップがある。
もちろん弁護士としても優秀だ。
西園寺先生は、沢山の事案を抱えつつもクライアントの要望を的確に把握し早期解決していく為、若くして当事務所の人気弁護士に登りつめている。ちなみに三十五歳、独身。
このハイスペックイケメンこそが、西園寺晴正先生なのだ。
(二次元こそ正義。二次元こそ理想に忠実……)
心の中で唱え、朝日を浴びる先生にときめいてしまった自分を戒める。目の前のとびきり素敵な三次元に惑わされぬよう心を律して、今日も業務に励むのだった。