一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
***

「な、な、な、なんで!? なんで無いんでしょうか!?」

 自室で寝る準備をしようとした私は、先程からとても焦っている。どこを探しても布団が無いのだ。ベッドなど大きな家具は実家に置いてきたし、この家にベッドが運搬されてないのは分かっている。だが、布団は持ってきたたはずなのに、影も形もないのだ。

「ごめん! 客用布団とかも無くて……俺のベッドしか寝る場所が無いんだ。とりあえず今日は俺がリビングで寝るよ」

 つまりこの家にある寝具は、先生の寝室のダブルベッドのみ。先生はご多忙な為か、家の中の家具なども少なく、リビングはテレビ台とカーペット、小さなローテーブルが敷いてあるだけだ。

 夏場とはいえ、床で寝れば身体が痛くなるに違いない。

「実家に連絡して布団を持ってきてもらいます!」

「そんなことしたらバレちゃうよ。結婚したいって言ってた男女が、夜に布団を寄越せだなんて」

「……でも」

「ベッドで、一緒に、寝る?」

「えええ!?」

 思ってもみなかった驚愕のお申し出に、私の声は大変上ずってしまった。その声に西園寺先生もぎょっとする。

「な、な、何もしない! 絶対しない!」

 先生が慌てて私の貞操を守る約束をしてくれた。先生の言葉は信頼できる。でも男性と同じベッドで寝るなんて初めてのことで、戸惑いが大きい。しかし、先生をリビングに寝かせる訳にもいかないし、優しい先生が私が床で寝ることを許してくださる気もしない。ということは、先生の提案を飲むしかないわけで……。

「……わ、わかりました」
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