一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「ありがとうございます」
実家以外の家の鍵。なんだか手にすると不思議な気分だ。
「じゃあ、いってきます」
そう言って足早に晴正さんが玄関へ向かう。
「い、いってらっしゃいませ!」
慌てて追いかけてそう言ったところ、玄関で靴を履いていた先生の動きがピタっと止まった。
「いいね、こういうの」
「え?」
「新婚さんみたいでさ」
満面の笑みの晴正さんと目が合い、私はたぶんまた顔を赤くしてしまった。朝から爽やかな満面スマイルは眩しい!
「いってきますのチューでもしとく?」
完全に意地悪顔の晴正さん。
「し、しません!!」
全力で言い放った私の腕を晴正さんが掴んで、ベッドの時と同じくまたもや引き寄せられてしまった。つまり、抱き締められている。
「せっかく出かける準備してくれたのにごめん。その服も可愛い」
耳元で囁かれ、私は腰が抜けるかと思った。二度目だが、慣れるわけがない! 晴正さんはドギマギしている私を見て、クスリと笑い、「じゃあいってきます!」と元気に出勤していった。
私は玄関に取り残され、しばらく棒立ちしていた。今の服装は小花柄のシャツワンピ。膝下までの丈が気に入って購入したものだ。こ、こんな感じがお好きなのかしら。仕事中も私服だが、かっちりとした印象の服ばかりだし、来客があればスーツやジャケットを羽織っているので、いつもと違って新鮮だったのかもしれない。
(今日、お買い物に行けなくてよかったのかもしれない……)
こんなにドキドキさせられて、身が持ちません。