一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
事務所近くの住宅街の一角にある、お洒落なパン屋さん。そこには十席ほどのイートインスペースがあり、私たちはそこでよくランチをする。今日の待ち合わせもこのパン屋さんで、事務所に近い晴正さんの家からは徒歩十五分程で着いた。
「おまたせしました」
愛海さんは、既にコーヒーを飲んで待っていた。今日の愛海さんも可愛らしくて素敵だ。白い丸襟がついたブラウスに、グリーンのサロペットを着て、髪の毛はお団子にまとめている。
「急に呼び出してごめんね。ここのパン食べたくて。ご飯まだだったら、選んで一緒に食べましょ!」
「……はい! 食べます!」
私は、野菜がたっぷり乗ったフォカッチャと、焼きたてだったこの店自慢のクロワッサン、それからコーヒーを頼んで席に着いた。
こちらのコーヒーは、近隣のオフィス街にひっそりとある喫茶店のマスターがこだわりを持って挽いた豆を使用しているらしく、とても香り高くて美味しい。パン屋さんといえど侮れません!
「で、どうしたのか聞いてもいい?」
愛海さんが唐突に本題に入った。クロワッサンを美しく食べるのはなかなか困難だが、愛海さんはかなり上手に召し上がっている。……ってそんなことを観察している場合ではない。
「……はい、……あの、えっと……どう、お話していいやら……」
「絶対誰にも言わないわ。所長にも、奈良崎先生にも。ただ美月ちゃん、1人で困ってたらいけないなと思って。……言いたくないならいいのよ。でも、困ってるなら、力になりたいだけ」
「あっ、あのっ……!」
そうして私は愛海さんの優しさに甘えて、西園寺先生の家に住むことになったことを報告してしまった。