一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

 愛海さんが微笑んで後ろを指刺したので、恐る恐る振り返ると、晴正さんが帰り支度を整えて立っていた。

「遅くなって悪い。美月、帰ろう」

バザバサバサバサッ

 入り口近くでコピーをしていたパラリーガルの先輩が盛大に紙をばら撒き、呆然としている。他の方々もその音で気づいたのか、一斉に手を止めて、振り向く。晴正さんが一気に注目の的になってしまった。

「大丈夫?」

 さすが、晴正さん。動じずに、すかさずコピー機に駆け寄り、ばら撒かれた用紙を素早く集めて手渡した。渡された彼女はまだ放心状態。それから晴正さんは優しい微笑みを浮かべてこちらに向き直り言った。

「美月、かえろ?」

下の名前で呼んじゃいましたよ!執務室内がシーンとお通夜のように静まり返り、みなさん放心状態ですよ!

「は、は、はーい」

 ジ・エンド。終わりました。愛海さんのお仕事の山は、恐らく明日からは私の山となることでしょう。

「デ・エ・ト! 楽しんでね〜!」

 愛海先輩がとどめを刺す。私はぺこりと頭を下げて晴正さんに駆け寄り、急いでその場を去ることしか出来なかった。

 私たちが執務室を出た途端、「えええええええええ!!」と悲鳴が聞こえたのは、空耳だと信じたい……。

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