一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
そして、寝具店の前にやってきた。
「美月は今のシーツの色、嫌い?」
晴正さんのベッドのシーツだろうか。私のお布団を買いに来たと思っていたけれど、シーツも買い替えるつもりなのか?どういう意図か掴めない。
「あの、とても爽やかなグリーンで……好きですよ?」
疑問符を浮かべながら返答すると、「枕の高さはどう?」と新たな質問が。
「えっと、丁度良いです?」
「じゃあこのお店に用はないね!」
きっぱり言い放って先を進む晴正さん。
「あの、私のお布団を購入させていただきたいのですが……」
これまでのお買い物は、晴正さんに頼ってしまったが、これは私個人が使用するもの。私のお財布から出すつもりだ。
「……俺と寝るの、いや?」
イケメンが眉毛を下げてこちらを見てきた。これはアレですね。ずるいやつです!
そんな顔、恋愛初心者の私だってキュンとしちゃいますよっ!
私たち、偽物の婚約者であって、付き合ってすらないのに、一緒のお布団なんて、はしたなくないのだろうか。恋愛経験が乏しすぎて世の中の常識が分からない。
「どうしても嫌なら布団でもベッドでも買うよ。でも、もし美月がいいなら、これからも隣で寝てほしい」
''人肌恋しい"季節には程遠い夏。
蝉の声が何処からか、けたたましく聞こえてくる街中で、私はベッドでの温もりを、彼の胸板を、ふわふわの毛先を、匂いを思い出して……。
「顔真っ赤だね」
「っ!!」
晴正さんがにっこり笑って「はい次行こう!」と私の手を取った。
その手もやっぱりあたたかくて。
私は今度は手汗をかかないかヒヤヒヤしたのだった。