一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「俺は悪くない! 担当の弁護士連れて来い!」
「あいにく今、外出中です」
「別の弁護士でも良いから連れて来い!」
ごもっともな打開策に対応出来ず、ひたすら恐縮しながら私はご説明するしかない。
「申し訳ございません! 他の弁護士も席を外しておりまして……。あと少しお待ちいただけましたら呼んで参ります」
来客中のルールとして、クライアント以外のお客様からは、決して目を離さないことになっている。つまり私は席を外せない。
センシティブな情報や機密事項を沢山扱う弁護士事務所において、クライアントの秘密厳守は当たり前。普段から鍵を掛け書類等の管理はしっかりしているが、念には念を。勝手に資料を見られたり、大事なオフィスに侵入してこないよう警戒する為のルールなのだ。
それにしても困った。この方も怒鳴って喉が乾いているだろうに、お茶を淹れて差し上げることも出来ない。
以前は他のパラリーガルがお茶を持ってきてくれたり、他の弁護士先生を呼んできたりしてくれていたのだが……。
(いえ、他力本願ではいけませんね!)
決意を胸にお客様の目の前の席に座る。
「失礼します。何の力にもなれませんが、私がお話だけ伺います!」