一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

「あんたじゃ話にならんのだろう! 他の弁護士呼んで来い!」
「今は諸事情で呼べません! あと少々しましたら担当弁護士が戻りますので、それまで私がお話を伺います! 失礼ですが、黄田川様は今、大変感情的になっていらっしゃるかと! 私に思いの丈をぶつけて、落ち着いていただいた方が弁護士との話し合いも円滑に済むかと存じます」

 物凄い剣幕だった黄田川様が、はっとしたかと思うと、少しシュンとした。

「……母ちゃんにも、いつも言われてたんだよ。アンタはすぐ頭に血がのぼるって。話も聞いちゃあくれないって」

「いえ、交通事故に遭われた方は皆様、気が動転するものですよ。割合のことで揉める方も珍しくありません。お気持ちお察しいたします」

「……あんたは若そうなのに、こんなに怒鳴られても平気なんだな。可愛いお嬢さんに大きな声を出してすまんかった」

 先程からの物凄いトーンから一気に冷静になっていただけたようだ。

「いえ! そんな! こちらこそ、弁護士が不在で、ご迷惑をおかけしまして……!」

 突然しおらしく反省し始めた黄田川様に驚きつつも、緊張で震える手が悟られぬよう膝上でしっかりと重ねる。
< 67 / 142 >

この作品をシェア

pagetop