一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

 その後、黄田川様はゆっくりと、事故時のこと、お気持ち、ご不満に思った保険会社の対応など、ポツポツと話し始めた。

 そして、説明に聞く耳を持たなかったご自分も悪かった、と仰ってくださったので、自動車事故の判例をご覧いただいて説明してみることに。

「もしよろしければ、こちらをご覧いただけますか?」

 私は応接ブースの本棚から、一冊取り出した。

「……これは?」
「こちらは過去の裁判の判例がまとめられた本です。……こちらのページに黄田川様の事故と類似したものが載っています」

「本当だ! 道の形まで似ておるな」

「完全停止をしていない車同士の事故の場合、双方に責任割合が発生する、という判決です。恐らく今回の裁判でも、残念ですが黄田川様にもご責任があるとの判決になると思います……」

「……そうかぁ。俺の事故とそっくりな事故だもんなぁ」

 黄田川様の事故は、直進車に右折車が接触するという典型的な事故だ。黄田川様は直進車。まっすぐ走っていただけなのに、過失があると言われるのが屈辱だったのだろう。

「お力になれず、申し訳ありません……」
「いや。姉ちゃんのお陰で分かったよ。ありがとよ」
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