一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「黄田川様!?」

 ちょうどそこへ、事務所に戻ってきた晴正さんが驚いた顔をしてやってきた。

「外出しており申し訳ありません。しかし、お約束はしていなかったかと……。お待たせしましたか?!」
「いや。それに怒りはもう収まった」

 晴正さんは不思議そうに私の顔を見ました。

「黄田川様のお相手の担当弁護士です。西園寺弁護士はきちんとお話を聞いてくれると思いますよ。今、お茶をお持ちしますね」
「いやいいよ姉ちゃん。もう帰る」
「え?」

 黄田川様は立ち上がり、晴正さんの方へ目を向けました。

「おい弁護士さん」
「はい、何でしょうか。」

 何やら改まったご様子を察知してか、晴正さんもしっかりと黄田川様に向き直りました。

「うん、この姉ちゃんと話して決めた。事故した相手は気にくわんが、裁判するのは止めたい。まだ間に合うか?」

 晴正さんは僅かに目を見開き、そして微笑みながら説明しました。

「……間に合います……! 私も、もう一度、黄田川様としっかりお話させていただいてから、と思っておりましたので、まだ手続きを進めておりません」

「そうか。じゃあ、この本の割合通りにしてくれるなら、終わりにしたいんだが」

「はい。承知しました。我々のクライアントにも私から説明致します。まとまりましたら近日中に示談書をご自宅にお待ちしても?」

「あぁ。構わん。頼んだよ」

「いえ、わざわざ御足労いただきまして、ありがとうございます」

 そうして黄田川様は帰っていった。

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