一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
 世の女子たちは殿方と手を繋いだりするとき、手汗はどうしているのでしょう!? 焦れば焦るほど手汗が分泌される気がしてきて、私は口を動かすことに専念した。

「じっ、示談になったのは、良いタイミングで戻って来てくださったからです! それに、晴正さんがお顔を見ただけで黄田川様だとすぐ思い出されたのも、印象が良かったんだと思いますよ。保険会社の社員がご自分の名前を間違えて何度も呼ばれたのも気に食わなかったと仰ってましたから」

「そんな保険会社へのクレームまで聞いて……美月は怖かったのに、ちゃんと判例まで説明してくれたんだろ? 大変だったな。ありがとう」

「弁護士の先生方はいつもああして、クライアントや相手の要望や不満を沢山受け止めていらっしゃるんですよね……。尊敬します」

「美月だって今日は頑張っただろ? お疲れ様」

 そう言って晴正さんは手を握っていない方の手で、私の頭をそっと撫でてくれた。一度引いてくれた涙が、また少し顔を出しそうで、慌てて今度は笑って誤魔化す。

「えへへ。晴正さんのお顔を見たら、安心しちゃいました。泣いてしまって、すみません」
「可愛いすぎかっ!」
「ええ?!」

 最近、晴正さんが分かりません。
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