一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
美月は必死に誤魔化そうとしていたが、「普段は本当に平気だったんですよ?」と前置きをして、ポツリポツリと話し始めた。
嫌がらせの内容は実にシンプル。完全な無視だ。
挨拶も返されず、連絡事項も通達されず、メールも無視。ただし、愛海さんや弁護士の目がある時は何事もなかったかのように振る舞うそうだ。
一人ではなく組織で。
しかし、普段の仕事は、俺専属のパラリーガルの業務だから、それほど支障は無かった。だから俺にも相談しなかった、とのことだった。
愛海さん以外にも、他にもこっそり話しかけてくれる同僚もいて、本当に今日まで困らなかったと念押しされた。
「全然気付かなくて……悪かった……。ごめん、美月」
「……晴正さん、人気者ですから。奈良崎先生の時もそうでしたし、皆さん嫉妬してしまうものなんだと思います。私には愛海さんも居ますし、晴正さん専属で仕事の関わりも少ないですし、大丈夫ですよ!」
さっきまで泣いていた、赤い目で健気に笑ってみせる美月。ああ、俺は、君が愛しくてたまらないよ。
応接ソファに並んで座る、この距離さえ遠い。君の一番近くに居たい。君に一番に頼られる人間でありたい。
「……美月。この件、俺に任せて?」
「え?」
「美月を俺が守るよ。守りたい。それに、この事務所をいつか独り立ちしたい、とは思っているけど、ここまで育ててくれた事務所だ。雰囲気が悪いのは見過ごせない」
美月のことだけでなく事務所全体の雰囲気を持ち出して、無理矢理説得した。