一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
美月には執務室でできる仕事を沢山頼んでから、俺は所長室へと向かった。
可愛い泣き顔は人に見せたくなかったし、美月も泣いた跡を誰にも悟られたくないだろうと思ったから、暫く執務室に篭ってもらうことにしたのだ。
所長室はこのビルの十五階。もう朝礼も終わって戻ってきているはず。アポなしだが愛娘の一大事だ。所長も分かってくれるだろう。
秘書の西島さんに通してもらうと、書類仕事をしていた所長が驚いた顔で俺を見た。
「どうした?」
これまで必要最低限しか会話せず、この所長室には普段全く寄り付かなかったから当然だろう。ついこの間まで、美月の不倫相手だと思っていた俺は、所長を目の敵にしていたのだ。あからさまに態度には示さなかったが、感じることがあったのかもしれない。
「突然、すみません。み、……高峰さんのことで、急ぎの相談があって参りました」
所長の顔色がすっと変わった。
「西島さんは下がって。この部屋に誰も近付けないように」
「はい、承知しました」
西島さんは言われるがまま、速やかに退室していった。それを見るや、所長は立ち上がり俺を応接ソファに誘導、自身も座りながら、「で? 何があった?」と聞いてきた。所長の察しの良さは、今回ばかりはありがたい。
「俺と美月さんの婚約を事務所内で発表したいと考えています」
「突然だな。式の日取りが決まってからじゃ駄目なのか?」
「はい。実は──」
恐らく二週間前から事務所内で美月が組織的に避けられていること、また以前から所長と美月が不倫関係にあるという噂があることを報告した。
可愛い泣き顔は人に見せたくなかったし、美月も泣いた跡を誰にも悟られたくないだろうと思ったから、暫く執務室に篭ってもらうことにしたのだ。
所長室はこのビルの十五階。もう朝礼も終わって戻ってきているはず。アポなしだが愛娘の一大事だ。所長も分かってくれるだろう。
秘書の西島さんに通してもらうと、書類仕事をしていた所長が驚いた顔で俺を見た。
「どうした?」
これまで必要最低限しか会話せず、この所長室には普段全く寄り付かなかったから当然だろう。ついこの間まで、美月の不倫相手だと思っていた俺は、所長を目の敵にしていたのだ。あからさまに態度には示さなかったが、感じることがあったのかもしれない。
「突然、すみません。み、……高峰さんのことで、急ぎの相談があって参りました」
所長の顔色がすっと変わった。
「西島さんは下がって。この部屋に誰も近付けないように」
「はい、承知しました」
西島さんは言われるがまま、速やかに退室していった。それを見るや、所長は立ち上がり俺を応接ソファに誘導、自身も座りながら、「で? 何があった?」と聞いてきた。所長の察しの良さは、今回ばかりはありがたい。
「俺と美月さんの婚約を事務所内で発表したいと考えています」
「突然だな。式の日取りが決まってからじゃ駄目なのか?」
「はい。実は──」
恐らく二週間前から事務所内で美月が組織的に避けられていること、また以前から所長と美月が不倫関係にあるという噂があることを報告した。