一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「不倫の噂は知っている。その噂があれば、美月に悪い虫がつかないかと思って放っておいたんだ」
そう言いながら俺をギロリと見てくる。やはり。気付いて放置していたか!
「今や所長と俺の二股疑惑です。美月は所長の娘で、俺の婚約者だと公表していただけませんか?」
快諾してくれると思っていたが、意外にも所長はそこで「うーん……」と考え始めた。
「……出来んな……」
「はぁ?!」
何言ってるんだこの人は! 愛娘が事務所内で居心地悪い思いをしてるのに!
「美月の同意は得てないだろ? 美月は俺の娘だと特別扱いされることを嫌がるはずだ」
ハッとした。確かに、名字を変えてまで働いて、娘ということは隠しているのだ。そう簡単には開示したくないだろう。俺はまた、美月の気持ちを汲めていなかったのか……。
「ははっ! そう落ち込むな少年。君と美月の婚約を俺から発表してやろう。そうすれば、俺は不倫から足を洗い、君たちを祝福している、とも見える」
所長がとんでもない案を提示してきた。が、まぁ確かに最善策だ。
「……なんですかそれは……」
「君の気持ちは分かったよ。美月を大事にしてることも伝わった。美月を頼むよ」
「……はい」