一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「なんで告白しないの?」
「こわいんだと、思う」
「振られたって諦めなきゃいいじゃん。高峰さんは押しに弱いって愛海ちゃん言ってたし、振り向いてくれるまで押せばいいじゃん!」
「えっ! 押しに弱いって、誰かに押されてるの? 他の輩が美月に迫ってるの? 誰?!」
「さぁしーらなーい♪」
コイツー! 昔から大事なことは言わない奴だった!
美月が他の男と会ってると考えるだけで、嫉妬で身体が引き裂かれそうだ。
「……帰る」
「まぁ待てって」
奈良崎が立ち上がろうとする俺の肩を掴んでそれを阻止した。そして緩やかに笑った。
「くくっ。お前がそんなに取り乱すの初めてみたよ」
「お前も愛海さんと誰かが今お茶してる妄想とかしてみろ! 同じだろ!」
「同じじゃないよ」
何気なく悪態をついたら、意外にも真剣な眼差しで否定された。いつも茶化してくるコイツにしては珍しい。
「俺は愛海ちゃんを側で一生幸せにするって、二度と離れないって約束した。言葉にした。愛海ちゃんは承諾した。だから俺たちは契約関係にある」
「なんだよ弁護士みたいなこと言うな」
「ははっ。弁護士だからねー。……お前は違うだろ。まだ何も伝えてないんだろ? 周りだけ固めても、当人同士の約束がなければ、彼女の未来は貰えないよ」
「……分かってるよ」
分かっている。
でも、この棚から牡丹餅な状況が夢なんじゃないかって、今でもまだ疑いたくなるんだ。
そして、自分の部屋で眠る彼女を見るたび、この夢が醒めないように祈ってしまう。
言葉にしてはっきりするのを、躊躇ってしまうのだ。
「よし! 愛海ちゃんおススメのアニメを見ます!」
「はぁ?」
唐突に奈良崎がDVDを取り出した。
色んな髪色の男たちが、キラキラした笑顔で描かれているパッケージ。
「もう女子のキュンが詰まってるんだって! それを参考に高峰さんを押して押して押しまくれ!」
愛海さんはウンウンと頷いている。これは、従うしか無さそうだ。
「……分かりました……」