一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

 薄れていく意識の中で、私は過去の記憶を辿っていた。

 それは幼い記憶。小学生だった私の、痛い、痛い記憶。

 本当(・・)の、父と母との、別れの記憶。





「美月! 今日はお父さん早く帰ってくるぞー!」

 父は家族の時間をとても大切にしてくれた。仕事も忙しいだろうに愚痴一つ言わず、いつもニコニコしている人だった。私は当時十歳だったが、反抗することなく、優しい父が大好きだった。

「お父さんったらお誕生日だからって浮かれてるわ」

 母は料理上手で、すこしお茶目なところもあって。自宅でピアノの先生をしており、少し厳しいところもあったが、沢山の子どもたちに慕われている自慢の母だった。

「お誕生日ケーキ、作って待ってるね!」

 その日は父の誕生日で、私と母は張り切ってケーキを手作りすることになっていた。

「おお! 今年も手作りか! 楽しみだなー!」
「うん! ママと作るからきっと美味しいよ!」
「ありがとう! ママもありがとうな」

 父も、きちんと感謝の気持ちを口に出す人だった。優しく笑うと目尻に皺が出来て、大きな手は温かく、父の人柄そのものだった。

「ふふっ。ご褒美期待しちゃおー!」

 母は、太陽のような人。何でも笑い飛ばしてくれ、時には子どものように一緒に楽しんでくれる人だった。
 
「おおっ! ご褒美かー! 任せとけ! って今日はお父さんの誕生日なのに!」
「ははははっ」
「ふふふっ」

 そうして笑い合ったのが、家族の最期の思い出。

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