一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
***

 目を開けると、見慣れない天井。

「……美月?!」

 目の前に沢山泣いた様子の母がいた。

 正確には、この人は実母の妹。叔母にあたる。
 十歳だった私を引き取って、何不自由なく大切に育ててくれた。

「お母さん……」

 私の大切な二人目の母。随分泣かせてしまいまったようだ。
どうしてだったか──

「──っ!!!」
「急に起き上がっちゃだめよ!!」

 息がっ! だって彼が!

「っ!! ……はっ、はるまささんっ!」
「大丈夫だよ」

 この病室には、私の義弟、守もいた。

「守くん……!?」
「愛海さんっていう人から、また姉ちゃんの携帯に連絡してもらった。こことは違う病院に運ばれてたけど、怪我人は轢かれそうになった子どもだったって。姉ちゃんの彼氏が庇った時にちょっと頭を打ったから念のため。親が側にいなかったから付き添ってたみたい。彼氏はピンピンしてるってさ」

 その言葉を聞いて、心が、身体が、安堵で解放されていくのを感じた。

「う……う……、ううっ……」

 目から涙が溢れてくる。

「うん、いいわよ。泣きなさい。大丈夫」
「うわぁぁぁぁぁ……」

 安心して、涙が止まらない。母の胸を借りて、暫くの間、私はずっと泣いた。ようやく息が出来た気がした。

 両親を失った時も泣かずにいたのに。

 晴正さんを失わなくてよかったと、心から安堵した。涙が溢れ落ちるたび、晴正さんに会いたいと思った。あの日のようにまた抱き締めてほしいと願った。

 そうして私は、自分の気持ちに気付いたのだった。
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