一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「あらあら、若いって良いわね」
母の穏やかな声が聞こえてきたが、気にする余裕もなく晴正さんに駆け寄る。
晴正さんもこちらへ走り寄り、そして、あっという間に彼の腕の中に包まれていた。
「……ごめん! 心配させた」
「いえ! あの! 私勝手に勘違いしたみたいで……」
少し腕を緩めて、晴正さんの手が私の頬にそっと添えられた。
「泣いた跡がある……。ごめん。もう二度と心配させないから。約束する」
「……これは、安心したからで……。大袈裟に騒いでしまって……」
「ありがとう。俺を案じてくれたって聞いて、嬉しかった。本当は昨日すぐに会いたかったんだけど──」
「ダーリンったら、晴正さんを追い返したんでしょー? ごめんなさいね?」
あれ? お母さん? なんかダークなオーラが出てません?
母の不穏な空気を察してか、晴正さんは優しく抱き締めていた身体を離しつつ、しっかりと私の手を握って母の方へ向き頭を下げた。
「……この度は色々とご心配をお掛けしまして申し訳ありませんでした」
「……事情は聞いたのね?」
「はい」
「分かりました。運転に気をつけて。美月、またいつでもうちに帰ってきなさいね!」
そうして母は仕事へ出掛けて行った。