legal office(法律事務所)に恋の罠
「お、お父様、お母様。ご機嫌麗しく、健やかで、何よりでございます」

和奏は、スーツの男性と着物の女性を見て、恭しくお辞儀をした。

「和奏ちゃん、おめでとう。ウエディングドレスはママにも選ばせてね」

「和奏・・・、久しぶりだな」

キョロキョロと会場内を見渡す女性と、和奏からピクリとも目を反らさない男性。

それは、和奏の母である夢谷晴子と、父で高等検察庁の検事長、夢谷慎之介だった。

「和奏さんのお父様とお母様でいらっしゃいますね。私はこのHotel Blooming 東京でCEOをしている桜坂奏と申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」

動揺を隠せない和奏の横で、奏も恭しく頭を下げて挨拶をした。

「夢谷検事には、仙台のホテルの土地所有権を巡って、不動産業者と争ったときにお世話になり、外国人による詐欺事件でも率先して捜査をしてくださった恩があるんだよ」

駈は嬉しそうに慎之介を見て言った。

「夢谷検事の仕事と奥様の療養の都合で、和奏さんが山崎弁護士の家にお世話になっていたことも聞いている。実質は山崎夫妻が育ての親とはいえ、夢谷夫妻をないがしろにするわけにはいかないからね。今日、こうしてこの祝いの席に招待させていただいたんだよ」

桜坂会長が言うように、和奏や山崎夫妻が、和奏の両親をないがしろにしてきたわけでは決してない。

和奏は山崎夫妻と共に、学校を卒業する節目だけは夢谷家を訪れ、その報告をすることにしていた。

和奏が両親に最後に会ったのは、今から5年と少し前。

司法試験に合格したその日が最後だったと記憶している。

しかし、小学校3年生で山崎家に居候になって以来、数えて5回、会ったっきりだ。

今さら親だと言われても、なんの感傷も湧かないどころか、和奏は、緊張で倒れそうだった。

その緊張を解くかのように、

「夢谷検事!和奏!」

と、大きな声を出しながら、入り口から入ってきたばかりのボブヘアの女性がニコニコと歩み寄ってきた。

その女性は、警視庁人身安全対策チームの警部補、水谷直美だった。

隣には、直美の彼氏である警視庁キャリア、奏の親友でもある香取直泰もいた。

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