legal office(法律事務所)に恋の罠
2年前、アメリカのボストンにあるHotel Bloomingの経営が落ち込み、東京本社のCEOである奏に白羽の矢があたった。

8歳年下の莉音は当時19歳。

女子ばかりの音大とはいえ、基礎教育を終え、誘惑の多い自由な生活に飛び込もうとしている莉音が心配ではあったが、会社の危機とあっては見過ごすわけにもいかない。

有名ホテルを経営する両親は、

『奏と莉音には人の痛みのわかる自立した人間になって欲しい』

と、あまり二人の日常生活には口出ししなかった。

よく言えば"寛容"
悪く言えば"放任主義"

忙しい二人は家にいることの方が少なかった。

だから、8歳年下の莉音の面倒をみるのも必然的に奏になった。

いわば、莉音の親代わり。

奏が29歳にもなって、今も実家住まいをしているのもそういった理由からだった。

ひと月前、長年実家で奏と莉音の身の回りの世話をしてくれている家政婦の松坂美和子から

「莉音さんに付きまとい行為をしている男がいる」

と報告を受けた。

奏が莉音に課していた門限22時になると、莉音と仲川の言い争う声が響き渡る。

この門限があったからこそ、莉音の理性のストッパーになっていたことは幸いだったが、それもいつまで機能するかわからない。

その時点で、奏がアメリカに渡って2年が経ち、ボストンのホテルの経営も安定し後継者となる人材も確保できていた。

聞けば、莉音の様子もおかしくなり、日に日に痩せていっているという。

それから奏が急いで仕事を引き継いで日本に帰国し、現在に至る。

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