legal office(法律事務所)に恋の罠
「まずは、こちらの接触禁止誓約書をご確認いただいた後、保証人の欄にサインと捺印をお願い致します。その後、警察署で将生さんに面会していただき、サインと捺印を受け取ってください」
そこには、莉音には二度と接近しないこと、違反した場合の対応などが細かく記載されていた。
「また、これまでに将生さんが莉音さんから受け取ったお金は、こちらが把握している限りの額を返金して頂きます」
和奏は、莉音が預金通帳から引き出した額と、現金譲与と同時期に将生がラウンジなどで豪遊して使った額の控えを提示した。
「いくら莉音さんの預金通帳から引き落とされた額を提示されたからといって、おろした額を全て将生さんに渡していた証拠にはなり得ない」
宇津井は首を振って馬鹿にしたように告げた。
「お馬鹿な将生さんは、口座振り込みで現金を受け取るずさんな行為を行っていたんですよ。しかもSNSを使って脅しのメールを送っています」
まるで、そう指摘されるのを待っていたかのように証拠の書類を追加で出した。
「先ほども言いましたがこれは相談ではありません。桜坂さんは好意で慰謝料は上乗せしてはいない。それでも不服を申し立てるのですか?」
和奏が呆れたように言った。
無表情の和奏を睨み付ける宇津井。
「い、いいんだ、宇津井くん。夢谷先生が信頼できる有能な弁護士であることは今までの対応で十分知っている。請求された額をお返しすることでいい」
淀んだ空気がいたたまれず、話に割り込んできた晴臣が慌てて言葉を繋いだ。
「桜坂さんも、表沙汰にならないよう配慮していただき本当にありがとうございます。慰謝料だって払いますので、どうかお許し下さい」
土下座する勢いの晴臣を前に、宇津井は和奏をジッと見つめていたが、全く表情を変えない様子を見て面白くなさそうに舌打ちした。
重なる沈黙を奏が遮る。
「話を長引かせて莉音を悲しませたくありません。莉音は今後、チェリストとして芸能界にもお世話になることがあるかもしれない。だからこそ将生さんとは縁を切っておきたいのです。慰謝料は不要です」
そう言って、奏は笑顔を崩さずに隣の和奏を見た。
「それに、私は夢谷先生を信頼しています。彼女に任せておけば間違いありませんから」
その言葉を聞いて和奏の頬が、一瞬だけ、ほんの少しだけ赤くなったように見えた。
向かい側でギリっと歯軋りをする宇津井の顔が見えた。
"この二人、過去に恋愛関係であったわけではないのか?"
奏はなんとなくホッとしている自分に苦笑した。
晴臣が書類にサインをするのを見納めると、和奏は書類を受け取り立ち上がる
「それでは、仲川社長、15時に拘置所で将生さんと接見してもらいます。遅れないよう」
そう言ってお辞儀をすると
「行きましょう。奏さん」
と、奏を促した。
「ああ、それと、これは仲川社長に知人としての忠告ですが、今回ばかりは保釈金を支払わない方が懸命ですよ。今までも、これからも決して将生さんのためにならない」
「お前に言われる筋合いじゃない。迷惑なだけだ...和奏」
慇懃に言って、和奏を下の名前で読んだ宇津井に対し、
「これは失礼致しました。しかし、あなたこそ今後は馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで頂きたいものです」
そう言って和奏は、宇津井に目をやることもせず社長室を出て行った。
そこには、莉音には二度と接近しないこと、違反した場合の対応などが細かく記載されていた。
「また、これまでに将生さんが莉音さんから受け取ったお金は、こちらが把握している限りの額を返金して頂きます」
和奏は、莉音が預金通帳から引き出した額と、現金譲与と同時期に将生がラウンジなどで豪遊して使った額の控えを提示した。
「いくら莉音さんの預金通帳から引き落とされた額を提示されたからといって、おろした額を全て将生さんに渡していた証拠にはなり得ない」
宇津井は首を振って馬鹿にしたように告げた。
「お馬鹿な将生さんは、口座振り込みで現金を受け取るずさんな行為を行っていたんですよ。しかもSNSを使って脅しのメールを送っています」
まるで、そう指摘されるのを待っていたかのように証拠の書類を追加で出した。
「先ほども言いましたがこれは相談ではありません。桜坂さんは好意で慰謝料は上乗せしてはいない。それでも不服を申し立てるのですか?」
和奏が呆れたように言った。
無表情の和奏を睨み付ける宇津井。
「い、いいんだ、宇津井くん。夢谷先生が信頼できる有能な弁護士であることは今までの対応で十分知っている。請求された額をお返しすることでいい」
淀んだ空気がいたたまれず、話に割り込んできた晴臣が慌てて言葉を繋いだ。
「桜坂さんも、表沙汰にならないよう配慮していただき本当にありがとうございます。慰謝料だって払いますので、どうかお許し下さい」
土下座する勢いの晴臣を前に、宇津井は和奏をジッと見つめていたが、全く表情を変えない様子を見て面白くなさそうに舌打ちした。
重なる沈黙を奏が遮る。
「話を長引かせて莉音を悲しませたくありません。莉音は今後、チェリストとして芸能界にもお世話になることがあるかもしれない。だからこそ将生さんとは縁を切っておきたいのです。慰謝料は不要です」
そう言って、奏は笑顔を崩さずに隣の和奏を見た。
「それに、私は夢谷先生を信頼しています。彼女に任せておけば間違いありませんから」
その言葉を聞いて和奏の頬が、一瞬だけ、ほんの少しだけ赤くなったように見えた。
向かい側でギリっと歯軋りをする宇津井の顔が見えた。
"この二人、過去に恋愛関係であったわけではないのか?"
奏はなんとなくホッとしている自分に苦笑した。
晴臣が書類にサインをするのを見納めると、和奏は書類を受け取り立ち上がる
「それでは、仲川社長、15時に拘置所で将生さんと接見してもらいます。遅れないよう」
そう言ってお辞儀をすると
「行きましょう。奏さん」
と、奏を促した。
「ああ、それと、これは仲川社長に知人としての忠告ですが、今回ばかりは保釈金を支払わない方が懸命ですよ。今までも、これからも決して将生さんのためにならない」
「お前に言われる筋合いじゃない。迷惑なだけだ...和奏」
慇懃に言って、和奏を下の名前で読んだ宇津井に対し、
「これは失礼致しました。しかし、あなたこそ今後は馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで頂きたいものです」
そう言って和奏は、宇津井に目をやることもせず社長室を出て行った。