legal office(法律事務所)に恋の罠
「お疲れ様。はい、これ。差し入れですよ」
和奏は、不意に目の前に現れた紙袋に驚いて、顔を上げた。
つい夢中になって、書類作成に没頭していたらしい。
「その様子では、私が社長室を出て行ったことにも気づいていなかったんでしょうね」
クスクスと笑う奏は、壁の時計を指差している。
13時過ぎてる・・・。
ホテルの案内を受け、この執務室に戻ってきてから、もう3時間が過ぎていた。
「皆さんのお話を聞いて、改善点がいくつか見つかりましたので早めに取りかかろうと・・・。つい夢中になっておりました。お気遣いありがとうございます。・・・では遠慮なく」
和奏は別段拒否することもなく、奏の差し入れたホテル自慢のクラブサンドとアイスティーを受け取った。
ここ数日で、奏に対抗しても無駄だと理解したのだろう。
奏は、笑いを堪えていた。
「それ程、このホテルのことを真剣に考えて頂けるなんて、本当にありがたいです。お礼と言っては何ですが、今夜お時間はありますか?」
「ありませんね」
袋からクラブサンドを取り出し、ほんの少し嬉しそうにしたのは一瞬だけで、和奏が即答する。
「小池さんから、招待券を頂いたんですよ。ダイニングバーの」
「小池さん、ですか?」
和奏が怪訝そうに聞き返す。
「ええ、先程、ブライダルに用事があって訪ねたところ、お帰りになる前の小池さんとお話をする機会がありまして」
"絶対、うそ"
和奏は確信を持っていたが、口には出さなかった。
"小池との関係を勘ぐって、奏から話しかけたに違いない"
そうわかっているのに、どうせ誤魔化すに決まっているのだから、口論する時間の無駄だ。
「そうそう、オーナーの吉村さんが久しぶりに会いたがっていたと伝えてほしいと伝言です」
吉村とは、確かにダイニングバーのオーナーだ。
吉村は、和奏が大学時代から通っていたお店の女性オーナーで、つい先日も法律相談に乗ったばかりだ。
小池もその話を吉村から聞いていたのかもしれない。
"それとも何かトラブルが?"
「わかりました。でも私は自費で、一人で行きますから、奏さんはどなたかを誘って行ってください」
「無理ですね。和奏さんと行ってくれ、と言われてもらった招待券なのに、他の人と行った、と噂をたてられたら、私が小池さんからの信頼を損ないます」
これは本当の話だった。
一旦、ブライダルサロンを出た小池は、数分もしない内にサロンに戻ってきて言ったのだ。
「ここは、和奏の・・・、夢谷さんのお気に入りのダイニングバーです。私は彼女と別れたあと、1度もお店を訪ねていませんでしたが、オーナーとは連絡を取っていて ・・・。招待券も毎年送られてくるのに行けなくて申し訳なかったんです。・・・勿体ないので、使ってくださいませんか?きっと、お役にたつはずだ」
招待券は、綾に預けていた財布の中に入れていたといい、それを奏に押し付けると、小池は足早に去っていったのだ。
「仕方ありませんね。仕事の話が入るかもしれませんが、それでもよろしければ・・・」
「構いませんよ」
今度は、奏が即答する番だった。
和奏は溜め息をつくと、クラブサンドに向き合い、食事を再開する。
「美味しい」
ボソッと呟く和奏は、最高に可愛かった。
和奏は、不意に目の前に現れた紙袋に驚いて、顔を上げた。
つい夢中になって、書類作成に没頭していたらしい。
「その様子では、私が社長室を出て行ったことにも気づいていなかったんでしょうね」
クスクスと笑う奏は、壁の時計を指差している。
13時過ぎてる・・・。
ホテルの案内を受け、この執務室に戻ってきてから、もう3時間が過ぎていた。
「皆さんのお話を聞いて、改善点がいくつか見つかりましたので早めに取りかかろうと・・・。つい夢中になっておりました。お気遣いありがとうございます。・・・では遠慮なく」
和奏は別段拒否することもなく、奏の差し入れたホテル自慢のクラブサンドとアイスティーを受け取った。
ここ数日で、奏に対抗しても無駄だと理解したのだろう。
奏は、笑いを堪えていた。
「それ程、このホテルのことを真剣に考えて頂けるなんて、本当にありがたいです。お礼と言っては何ですが、今夜お時間はありますか?」
「ありませんね」
袋からクラブサンドを取り出し、ほんの少し嬉しそうにしたのは一瞬だけで、和奏が即答する。
「小池さんから、招待券を頂いたんですよ。ダイニングバーの」
「小池さん、ですか?」
和奏が怪訝そうに聞き返す。
「ええ、先程、ブライダルに用事があって訪ねたところ、お帰りになる前の小池さんとお話をする機会がありまして」
"絶対、うそ"
和奏は確信を持っていたが、口には出さなかった。
"小池との関係を勘ぐって、奏から話しかけたに違いない"
そうわかっているのに、どうせ誤魔化すに決まっているのだから、口論する時間の無駄だ。
「そうそう、オーナーの吉村さんが久しぶりに会いたがっていたと伝えてほしいと伝言です」
吉村とは、確かにダイニングバーのオーナーだ。
吉村は、和奏が大学時代から通っていたお店の女性オーナーで、つい先日も法律相談に乗ったばかりだ。
小池もその話を吉村から聞いていたのかもしれない。
"それとも何かトラブルが?"
「わかりました。でも私は自費で、一人で行きますから、奏さんはどなたかを誘って行ってください」
「無理ですね。和奏さんと行ってくれ、と言われてもらった招待券なのに、他の人と行った、と噂をたてられたら、私が小池さんからの信頼を損ないます」
これは本当の話だった。
一旦、ブライダルサロンを出た小池は、数分もしない内にサロンに戻ってきて言ったのだ。
「ここは、和奏の・・・、夢谷さんのお気に入りのダイニングバーです。私は彼女と別れたあと、1度もお店を訪ねていませんでしたが、オーナーとは連絡を取っていて ・・・。招待券も毎年送られてくるのに行けなくて申し訳なかったんです。・・・勿体ないので、使ってくださいませんか?きっと、お役にたつはずだ」
招待券は、綾に預けていた財布の中に入れていたといい、それを奏に押し付けると、小池は足早に去っていったのだ。
「仕方ありませんね。仕事の話が入るかもしれませんが、それでもよろしければ・・・」
「構いませんよ」
今度は、奏が即答する番だった。
和奏は溜め息をつくと、クラブサンドに向き合い、食事を再開する。
「美味しい」
ボソッと呟く和奏は、最高に可愛かった。