legal office(法律事務所)に恋の罠
「それじゃ、桜坂兄妹をこちらにご案内して」

和奏は、そばに控えていたボディガード兼弁護士秘書である従弟の湊介に指示をした。

軽く頷いた湊介は、素早く部屋を出ると、しばらくして話題の桜坂兄妹を和奏と直美のもとに案内してきた。

「莉音さん、仲川は警察の方で確保しましたから、今日のところはご安心ください。この後、署までご同行願いますが、まずは、こちらの夢谷弁護士と今後の段取りをご相談頂いてからにしましょう」

直美は、莉音の肩を軽く叩くと、極上の笑顔を見せて部屋を後にした。

「和奏さん、本当にありがとうございました。本当に怖くて海外に逃げ出そうかとまで思っていましたが、音大もまだ1年以上残っていますし、日本に残れて良かったです」

莉音は、尊敬の眼差しで和奏を見上げると、和奏の両手を取ってブンブンと振った。

「莉音さん、脅す訳ではありませんが、これで終わりではありません。あの手の輩は逆恨みして、後に事件を起こす可能性があるのです」

和奏はアイアンフェイスを崩さずに、眼鏡の縁をクイッと持ち上げて続けた。

「莉音さんのお兄さん、奏さん,,,でしたか?これから、私は仲川の父親である仲川芸能事務所の社長に交渉を行います。莉音さんの代理人は奏さんが担当するということでよろしいですか?」

「ええ、もちろんそのつもりです。莉音は成人しているとはいえ、この通り世間を知らない大学生ですから」

和奏はチラッと奏に視線を向けたが、相変わらずのアイアンフェイスで話を続けた。

桜坂奏は、180cmの細みだが決して痩せすぎではないモデル体型。

ブラウンの髪と同様の澄んだ虹彩を持つ稀代のイケメンだ。

゛Hotel Blooming 東京゛を含む日本の系列ホテルを束ねるCEO。

雑誌にも取り上げられる注目の若手社長だ。

弁護士と依頼人という立場とはいえ、自分に全く興味を示さない夢谷和奏を、奏は興味深げに見つめていた。

その視線に気づいた和奏は、言葉を止め、

「何か、ご不明、ご不満な点でも?」

と眉間にシワを寄せて、奏に尋ねた。

「いえ、とても理路整然としていて分かりやすいです。続けてください」

そう言って、奏は僅かに苦笑した。
< 5 / 107 >

この作品をシェア

pagetop