legal office(法律事務所)に恋の罠
肩甲骨の辺りまで伸びるブラウンの髪は、耳の高さで緩く束ねられ、ナチュラルに施されたメイクは、彼女の美しさを上手に引き立てている。

白いブラウスの襟元は大きく開かれているが、その下の黒いアンダーシャツと黒のスラックスがそれを知的なものとして引き締めている。

ヒールの低い革靴は、長距離の移動を意識した゛出来る女性゛の戦闘服といった感じだ。

かなり男性を惹き付ける外見をしているが、女性専任弁護士ということもあり、男性嫌いとしても有名なため、彼女に言い寄る猛者は殆どいないらしい。

「・・・以上が今後のスケジュールになります。ご質問は?」

書類から目を離した和奏は、大きくて魅力的な瞳でジッと奏を見つめた。

「いえ、特にはありません」

書類を受けとりながら、奏も和奏を見つめ返す。

そんな二人の様子に気付くこともなく

「帰国したばかりなのに、奏兄さんにも迷惑をかけてごめんなさい」

と、莉音が奏の右腕に抱きつくように両腕を絡めて子犬のように潤んだ瞳を向けた。

「何を言ってる。もっと早く連絡するべきだったんだぞ。これ以上の被害が出なくて幸いだった。もっと自覚しないとな」

奏は妹に優しい微笑みを見せて、彼女の頭をゆっくりと撫でた。

「麗しい兄妹愛を守ることができて幸いです。それでは、お二人は水谷警部補について警察署に向かって下さい」

和奏は、莉音にのみ、僅かな微笑みを向けたように見えたが、すぐに無敵のアイアンフェイスに戻ると

「それでは奏さん、後日、ホテルのCEO室に伺いますのでスケジュール調整を宜しくお願いいたします。莉音さん、お疲れ様でした。山崎、後はお願い」

と一礼し、和奏は部屋を出て行ってしまった。
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